【朝原宣治の目】9秒台を通過点に
「陸上・日本選手権」(25日、パロマ瑞穂スタジアム)
日本最速を決める男子100メートル決勝は、ケンブリッジ飛鳥(23)=ドーム=が10秒16(向かい風0・3メートル)で初優勝を飾り、リオデジャネイロ五輪代表に内定した。0秒01差の2位に山県亮太(24)=セイコーホールディングス=が入り、2大会連続となる五輪代表が確実となった。桐生祥秀(20)=東洋大=は10秒31で3位に終わったが、派遣設定記録(10秒01)を突破しており、初の五輪代表に内定した。
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【100メートル元日本記録保持者・朝原宣治の目】大変驚いた。ケンブリッジ君があそこから追い上げることは想像できなかった。あれだけ先行されてから山県君に追いつくのは難しい。私はケンブリッジ君が2人の間で硬くなって自分の走りができないのではと予想したが、それを覆す素晴らしい走りだった。
山県君と桐生君は準決勝で対決したことが影響した可能性がある。温存したとはいえ勝負の世界。雨で消耗が大きかったことも考えられる。山県君はもう少し力を出せたかもしれない。桐生君は最後に足がつりかけたのか、レースが続いている疲労もあるだろう。
今回はケンブリッジ君が勝ち、布勢スプリントでは山県君。タイムが一番いいのは桐生君。三者三様の持ち味を出したしのぎ合いはとてもおもしろい。リオで3人とも準決勝へ進み、誰かが決勝へ行けば、日本のスプリンターはアジアで突出した存在になるだろう。
9秒台は今や条件がそろえば出る数字だ。もちろん数字は大事だが、世界的に見ればそれを出しただけでは戦えないと選手もわかっている。9秒台を通過点として、リオの決勝で戦うという目標を3人ともしっかり持っていると思う。(08年北京五輪男子400メートルリレー銅メダリスト、「NOBY T&F CLUB」主宰)