世界にはね返された箱根の華 「五輪コラム」
ロンドン五輪陸上長距離2冠のモハメド・ファラー(英国)が連覇を飾った男子1万メートルで、箱根駅伝のスター選手だった3人がそろってリオに散った。早大のエースだった大迫傑が17位で、東洋大OBの設楽悠太が29位、城西大OBの村山紘太は30位。世界の分厚い壁にはね返された。
▽周回遅れの屈辱 序盤はスローペースの滑り出し。スタート直後は設楽が先頭に並びかけ、村山が3、4番手に上がる場面もあったが、アフリカ勢がペースを上げ下げし始めた2000メートルの手前からは中団へ後退する。その後は大迫がなんとか17、18番手で先頭を追う形。その大迫も7000メートルあたりから脱落し、残り4周前後では村山、設楽が相次いで周回遅れになる屈辱的なシーンが続いた。 「箱根から世界へ」が合い言葉だった男子長距離陣。だが、その箱根のエース級が満を持して臨んだのがこの日の結果だった。日本勢トップの大迫は、ファラーが練習拠点にしている米オレゴン州ポートランドのナイキ・オレゴン・プロジェクトで大学時代から質の高い練習をこなしてきた。柔らかいチップや芝の走路で故障を避けながらスピードを磨き、室内の減圧装置で心肺機能を高める。加えて練り上げられた体幹強化のプログラムなど、かつての名選手、アルベルト・サラザール氏の指導による世界レベルのトレーニングを体感してきた。
それだけに「正直、もうちょっといい勝負ができると思っていた」というこの日のレースには納得がいかない。課題だったアフリカ勢の激しいペース変動への対応で「脚が疲れてしまって、思うような走りができなかった」と苦しかった終盤を振り返った。目指していた入賞には遠く「力及ばずという感じ」と敗戦を受け入れたが、「残念な部分と評価できる部分を冷静に判断したい」と4日後の5000メートル予選へ気持ちを切り替えた。 ▽指導者にも波及 ホンダ、旭化成という実業団の強豪チームでもまれて力を付けたはずの2人も世界との差を思い知らされた。大会前に右足のまめで十分な練習ができなかったという設楽は「思うように体が動かなかった」と悔しさをかみ殺した。村山は「しっかり練習を積んで自信はあった。結果が良くなくて残念」と話した。 大迫が伝統的な日本長距離界から飛び出したように、箱根から脱却して実業団で世界を目指す指導者も出ている。2010年に大学駅伝3冠を果たした元早大監督の渡辺康幸氏は現在、兵庫県の住友電工陸上部で駅伝ではなく個人のマラソン、長距離種目の選手育成に力を注いでいる。3年前に大迫が所属する施設を視察して日本の長距離界に危機感を持ったのが契機だという。どうすれば世界との差を埋められるのか。日本長距離界は再び大きな課題を突き付けられた。(船原勝英)