ボルト、前人未到の3連覇 「五輪コラム」
リオデジャネイロ五輪のハイライト、陸上男子100メートルでウサイン・ボルト(ジャマイカ)が軽々と3連覇を達成した。
一瞬のミスも許されないこの種目で2連覇しているのは、長い五輪の歴史でも1984、88年を制したカール・ルイス(米国)とボルトの二人だけ。スポーツ史にひときわ輝く金字塔を打ち立てた。
▽終盤にライバルかわす
スタートでやや出遅れたが、鋭く飛び出したライバルのジャスティン・ガトリン(米国)を終盤にかわして今季自己最高の9秒81でフィニッシュ。「世界記録を出す」と公言する4日後の得意種目、200メートルでも金メダルは間違いないだろう。そうなれば「空前」であるだけでなく「絶後」となる偉業だ。
2008年北京五輪で100メートル、200メートルの2種目に世界新記録を樹立して優勝。緊張の極致にあるはずのスタート前におどけた笑顔をのぞかせ、ゴール後の「弓引きポーズ」と相まって、一夜にしてスーパースターとなった。
ルイスや棒高跳びのセルゲイ・ブブカ(ウクライナ)らのスター選手が引退し、今世紀に入ってからは深刻なドーピング禍にあえいでいた陸上界の救世主になった。
196センチの長身ながら、長い手と脚を巧みに使って序盤からスピードに乗り、圧倒的な加速力でライバルを蹴散らす。
1991年の世界選手権(東京)で9秒86の世界記録をマークしたルイスは、当時としては長身の188センチでスタートが苦手だった。この時もトップに立ったのは90メートルあたりだった。
それに対し、09年に9秒58の世界記録を樹立した時のボルトは前半40メートルの通過が4秒64。ルイスの4秒77に対して距離にして約1・5メートルの差があった。
最高到達速度でもボルトが秒速12・42メートルだったのに対し、秒速12・05メートルのルイスを大きく上回っており、それが高次元の世界記録につながっている。
大会へ最高の調子を持ってくるピーキング能力の高さも特筆される。ここまでの五輪100メートル、200メートルの5レースに全勝。4年前のロンドン五輪でも、国内選考会で敗れた若いヨハン・ブレークを本番では圧倒した。世界選手権ではフライング失格した11年大邱大会100メートル以外、7レースすべてをシーズン最高記録で制している。今回は国内予選で故障し、「医療救済」を受けた末の出場でつかんだ栄冠だった。
「人類はどこまで速く走れるのか」という究極のテーマを体現するアスリート。「リオが最後の五輪」とコメントしているだけに、リレーも含めた残る種目での快走をじっくり目に焼き付けておきたい。
▽準決勝突破に手応え
日本勢では10秒01の記録を持つ桐生祥秀は予選落ちしたが、山県亮太とケンブリッジ飛鳥が準決勝へ進んだ。山県は準決勝で自己記録を更新する全体11番目の10秒05と好走した。10秒01で決勝に残った8番目の選手まであと3人。高く厚かった準決勝の壁突破の手応えをつかんだことだろう。来年の世界選手権、さらには4年後の東京五輪へ向けて最速メンバーのいっそうの奮起を望みたい。(船原勝英)