“日の丸ラストラン”川内優輝「メダル獲得の期待に全力で応える」
日本陸上連盟は17日、8月にロンドンで行われる世界選手権の男女マラソン代表を発表し、男子では“最強市民ランナー”の川内優輝(30)=埼玉県庁=が3度目の代表入りを果たした。今回の世界選手権を最後に日本代表争いからの撤退を表明している川内。ロンドンの地に魂の“日の丸ラストラン”を刻み込む。
国を背負い戦う最後の場所は決まった。川内はこの日、勤務する高校の願書受け付け業務で多忙のため、埼玉県庁を通じてコメントを発表。「ロンドン世界選手権の代表に選出していただき、『日の丸』をつけて戦う責任を感じると共に、今度こそ結果を残さなければならないという覚悟を新たにしました」と、決意を記した。
ロンドンは因縁の地だ。12年ロンドン五輪の選考会では福岡国際で日本人トップの3位に入ったものの、ダメ押しを狙って出場した東京マラソンで惨敗し、出場を逃した。東京マラソン翌日の会見では、頭を丸刈りにして登場。「期待に応えられなかったし、誠意を示すためにやった。さらし者になった方がいい」と、けじめを示した。
あれから5年。リオ五輪も逃し、最後の日本代表挑戦として挑んだ選考レースを勝ち抜き、たどり着いた場所はロンドン。運命を感じずにはいられない。
「12年のロンドン五輪を逃してから、自分自身の経験不足を補うために海外マラソンに挑むようになりました。そして、2014年の仁川アジア大会で金メダルを逃してからは、より積極的に世界各地で海外勢と戦ってきました。アジア、ヨーロッパ、オセアニアを中心にアメリカ、アフリカも含む26回の海外フルマラソンで、時差や長距離移動への対策を身に着けると共に耐性もでき、日本国内マラソンとは違うレース展開、コース、選手、大会運営も数多く経験することができました。また、そうした海外マラソンと共に北海道から沖縄まで40回の国内フルマラソンを含む多くの市民マラソンを走り続けてきたことで、自分自身の経験値が高まっていくと共に、その土地、その土地で、本当に多くの方々から、本当に沢山の応援をして頂きました」。
応援してくれた人への感謝、そしてマラソンランナー川内優輝としてのすべてを8月の一走に込める。11、13年に出場した過去2度の世界選手権では18位。ただ、計66回のフルマラソン、11回のサブテン(2時間10分切り)を成し遂げた“鉄人公務員”には、誰にも負けない経験がある。
昨年12月の福岡国際マラソンでは、右足を痛めた状態で世界選手権銀メダルのツェガエ(エチオピア)、元世界記録保持者のマカウ(ケニア)と接戦を演じた。あの激走に日本陸連の瀬古利彦長距離・マラソン強化戦略プロジェクトリーダーも「誰が見ても苦しい状況から巻き返してくる。辛さを超越する能力がある。ああいう走りができるのは彼しかいない」と、期待を懸ける。
最後の世界選手権での目標は明確だ。「これらの『経験』、そして『応援』に、これまで2度の世界選手権で得た『暑熱対策』や『調整方法』を加えることで、自分自身の日本代表挑戦の集大成として、ロンドン世界選手権での『メダル獲得』という期待に応えるために全力を尽くして戦っていきたいと思います」。低迷する日本男子マラソンにおいて、いまや夢物語のようにも思えるメダル。それでもこの男なら-。魂を込めた“日の丸ラストラン”が、奇跡を起こす。