稀勢の里“伝家の宝刀”左使えず 初日いきなり3連覇へ不安一敗「切り替える」
「大相撲夏場所・初日」(14日、両国国技館)
日本出身では貴乃花以来、16年ぶり東正位の横綱に就いた稀勢の里(30)=田子ノ浦=が小結嘉風(35)=尾車=に押し出され、黒星発進となった。春場所で負傷した左上腕部、左大胸筋が回復していないのは明らかで、宝刀の左腕は力なく封じられた。横綱昇進後、初めて横綱以外に白星を献上。1937年の双葉山以来、80年ぶりの初優勝から3連覇は険しい道のりになった。
横綱稀勢の里として初の両国国技館に凱旋。その初日の結びで座布団を舞わせてしまった。何もできない。痛々しい姿に館内は悲鳴、ため息が響いた。
弱点をさらすのは美学に反する男が、左胸から左上腕部に大きなテーピングを施した。百戦錬磨の嘉風が攻めないわけがない。
立ち合い、狙った左差しが入らず、簡単におっつけられた。通常なら伝家の宝刀「左おっつけ」で跳ね返すが、力が出ない。左腕を極(き)められ苦しげな顔で後退。右からの突き落としも不発で、棒立ちのまま観念したように土俵を割った。
風呂上がりの支度部屋。敗戦には多くを語らないのが稀勢の里だったが、サバサバしたように質問に応じた。体の動きを問われると「うー」とうなった後、「まあまあ、いいんじゃない」と半笑い。左の感触は「悪くない」と言いつつ、「相手が強いから負けた。相手が上回った。(相手の右おっつけを)我慢できれば良かったけど」と完敗を認めた。
患部の回復は明らかに間に合っていない。春巡業を1カ月全休し、リハビリ。2日に部屋で若い衆と相撲を取り始め、関取衆相手は6日からでわずか1週間の仕上げ。左腕は最後までかばったまま、ほぼぶっつけだった。
左腕を差すだけにして、右からの攻めを意識する新スタイルを試行錯誤してきた。「今までよりいいんじゃないかな」と手応えを感じていたが、稽古場のようにはいかない。本場所では違いがあるか?と問われると「そこらへんはある」とうなずいた。下半身を強化し、9キロ増の自己最重量184キロに作り上げた。「面白いことになる」と進化を予告していたが、苦しいスタートだ。
前売り券は発売即完売し、この日は当日券を求め早朝から長蛇の列ができた。空前の稀勢の里フィーバーはとどまることをしらない。漫画「北斗の拳」の三つぞろいの化粧まわしで初の横綱土俵入り。主人公ケンシロウの高安、次兄トキの松鳳山を従え、長兄ラオウの稀勢の里は土俵上で大歓声を受けた。
「あした切り替えて集中していく」。逆境を跳ね返してこそ、ヒーローは輝く。