末続慎吾が徹した「日本人らしい勝負」【一問一答・下】
2020年東京五輪へ向けて各界のキーマンに信条や理念、提言などを聞く「私の五輪志」は、陸上男子200メートル日本記録保持者の末続慎吾(37)=SEISA。五輪、世界選手権を通じて当時、短距離勢初のメダルとなる銅メダルを獲得した03年世界選手権(パリ)について語った。黒人選手ばかりのレースで徹したのは「日本人らしい勝負」だった。
-銅メダル獲得後のテレビインタビューはとても冷静だった。
「目的がはっきりしていたので。自分が認められたいからじゃなく、ただ自分が獲りたいから獲ると思考がシンプルだった。だから早く家に帰りたかったんですよ(苦笑)」
-黒人ばかりの中で日本人が初めてメダルを獲った。
「体の大きな黒人には勝てないのが常識だと小さい頃から聞いてきた。でも僕はそうなのかなって素直に思っていて、確かめたくて挑戦した。単純にかけっこで勝負してみたかった。(身体能力の違いは)あくまで情報でしかない。僕は情報を心と体で腑(ふ)に落としたかった」
-ナンバ走りやロケットスタートなど、日本人に合う技術を取り入れた。
「(日本人の技術の)方法論としてはおそらくある。でも、僕が追求するのは日本人らしい走り方。日本人らしい勝負の仕方。例えば、屈強な相手にどう臨むのかという気持ちとか。日本人らしい動きは存在する。(銅メダルは)精神的なことがその動きに反映していたと思う」
-世界選手権でのスタート時に、構えがルール違反(後に国際陸連が問題なしとして謝罪)だとして2度の注意を受けた。また、レース途中で左太もも裏にけいれんを起こすなどハンディやアクシデントが重なったが、すべてはね返した。
「勝負の世界にハンディはない。スタート地点に立った時点でみんな同じ。ハンディだと思ってしまうようなら、あの場に立たなければいいと思う」
-その潔さが日本人らしい勝負の仕方か。
「日本人の美しい考え方が好きなんです。日本人の末続慎吾として挑んだからあの結果が出たと思う。もちろん、日本人の体格や自分の環境を理解した上で編み出したトレーニングをやった。その上で日本人らしく臨んだ。だから海外でも日本人として認識されたんでしょう」
-0・01秒の世界では技術と精神面が合致しなければ勝てない。
「そんなに甘くないということ。そこ(技術)だけで解決できるなら、たぶん誰でも速くなれる。それだけではない、いろんな要素で陸上競技は成立していると思う」
-現役として2020年に挑むのか。
「いつまで続けるかは、僕にもわからない。走ったり、伝えたり、表現したりということになるのかな。ただ(東京五輪を目指せと)思っていただけるのは、競技者みょうりにつきる」
-選手、指導者、評論家など肩書がないまま20年を迎えそうだ。
「『末続慎吾』で覚えていただければ(笑)」