銅メダル引き寄せたレース6時間前の決断 土江コーチ「勝負を懸けるなら藤光だった」
「陸上・世界選手権」(12日、ロンドン競技場)
男子400メートルリレー決勝が行われ、リオデジャネイロ五輪銀メダルの日本(多田修平、飯塚翔太、桐生祥秀、藤光謙司)は38秒04で3位に入り、世界選手権では同種目初のメダルとなる銅メダルを獲得した。アンカーを予選のケンブリッジ飛鳥から藤光に変更。リオ五輪代表を外す苦渋の決断が、メダル獲得を呼んだ。
レースの6時間前、日本陸連の苅部俊二短距離コーチは、ある決断を下した。午前に行われた予選は1組で米国、英国に大差を付けられた3位で、38秒21のタイムは決勝進出8チームの中で6番目。特に3走の桐生と4走のケンブリッジの間でバトンが詰まり、本調子ではないケンブリッジの走りで一気に突き放された。
現地時間16時過ぎ、土江寛裕コーチに相談。各トレーナー、そしてリレーメンバーとして招集していたベテランの藤光に状態を確認し、腹を決めた。16時半から行われたチームミーティングで告げた。「オーダーを変える」。ケンブリッジに代えて、藤光をアンカーに据えることを発表した。苅部コーチは「いろいろな状況があっての判断。悩みましたね」と、振り返った。
告げられたケンブリッジは、気持ちの整理がつかない様子だったという。土江コーチは「『はい、分かりました』とはいかない。メダリストでもあるし、納得はできないでしょう」と、本人の気持ちを思いやった。
ただ、リオ五輪の結果があった中で、大きな期待を背負っている種目。「リオ五輪の時の状態なら確実にケンブリッジ。それは実力的にも間違いない。でもバトンを含めて、今回勝負を懸けるなら、藤光だった」(土江コーチ)。
ボルトがレース中に故障するというアクシデントがあったとはいえ、抜群のバトンリレーで予選よりもしっかりとタイムを伸ばしたからそこ生まれたメダルという結果。苅部コーチは「決勝の常連国から、メダルの常連国になりたいという思いがあった。その理想通りになりつつある」。リオ五輪からの世界大会2大会連続となる表彰台。厚さを増した選手層、そしてスタッフの冷静で的確な分析力、“お家芸”としての底力を見せつけたメダル獲得劇だった。