運命に導かれた桐生の9秒台 土地、風、スターターの決断

 陸上の日本学生対校選手権(10日・福井県営陸上競技場)の男子100メートルで日本人初の9秒台となる9秒98をマークした桐生祥秀(21)=東洋大=。くしくも9月9日に生まれた9秒台は、運命的な外的要因が重なった結果でもあった。

 2年前、開催日の日程を決めた時、福井陸協の木原靖之専務理事は「これはいい風が吹くな」と、率直に思ったという。大学生が出場するユニバーシアード(台湾)が8月中旬になったため、9月の第1週から2週目にずれ込んだ。ちょうど向かい風となる夏風から、追い風となる秋風になる時期。「(9月)1、2、3日だと夏風の可能性があるけど、8、9、10日だと秋風になる。追い風だと思った」と、当時を振り返った。

 ただ、初日から想定以上の追い風が吹き付けていた。男子100メートルは予選、準決勝とすべて追い風参考記録。桐生が9秒台を出した決勝の直前に行われた、女子100メートル決勝も追い風2・3メートルだった。木原専務理事は「ここの風は一度吹き出すと止まらない。諦めました」と、白旗を揚げていた。

 それでも最後まで諦めていない人間もいた。スターターを務めた福岡渉氏だった。スターター歴11年。この競技場に隣接する道守高校出身。同地の風は熟知していた。福岡氏は決勝の日の風にリズムがあることに気づいていた。「吹き流しをずっと見ていたんですけど、ビューッと吹いてやんで、強くビューッと吹いて3秒ぐらい長くやむ。そこしかないと思った」。強く吹く2度目の風が吹いた瞬間に、「オンユアマーク」を掛けた。タイミングを見ての号砲。ゴールの瞬間は思わず大型ビジョンを振り返った。追い風は公認条件の1・8メートル。「最高のスタートが切れたのかなと思う。すごい重圧だったんですけど、解放されました」と、満面の笑みで振り返った。

 このほかにも、強風のため、風を調整するシャッターを降ろす、降ろさないという議論もあったという。「自然に任せよう。それで出なかったらしょうがない」と、シャッター全開の決断を下した。もし降ろしていたら、9秒台はなかったかもしれない。

 9月9日に生まれた9秒台。その裏には複雑に絡み合った運命的な要素があった。

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