伊達公子 満身創痍も充実 さらば日本女子テニスの伝説
「テニス・ジャパン女子オープン」(12日、有明テニスの森公園)
女子シングルス1回戦が行われ、現役最後の大会に臨んだ元世界ランク4位の伊達公子(46)=エステティックTBC=は、世界ランク67位のアレクサンドラ・クルニッチ(24)=セルビア=に0-6、0-6のストレートで敗れ、現役生活にピリオドを打った。89年にプロデビューし、96年に1度引退。08年に38歳で現役に復帰し、39歳でツアー優勝を飾るなど、世界のテニス史に名を刻んだ“女鉄人”が、ついにコートでの戦いを終えた。
夏の終わりを告げるせみ時雨の響く有明の森で、日本女子テニスの伝説が終えんを迎えた。最後は伊達のバックハンドが力なくネットに掛かって終戦。「とうとう終わってしまいました。やっぱり寂しい気持ちの方が強いかな」。08年に復帰してから歩んできた9年間。2度目の現役生活にピリオドを打った46歳は、ちょっとだけ寂しそうに笑った。
1ゲームも奪えない完敗でも、伊達公子は伊達公子だった。直前の全米オープンで3回戦まで進んだ勢いある24歳クルニッチに、序盤から圧倒された。ショットでは力負けし、前後左右の揺さぶりにはついていけない。昨年2度手術した左ひざに加え、7月には古傷の右肩痛が再発する満身創痍(そうい)の状態。それでも培ってきた技術と、衰えを知らない闘争心で食い下がった。
第2セットには代名詞ライジングショットでポイントを奪い、0-5と追い込まれた最終ゲーム前にはコーチに「1ゲーム取りたい!」と訴えた。「自分らしいプレーを最後の最後までやろうと、コートに立ち続けた」。降り注ぐスタンディングオベーションに胸を張って応えた。
「若手に刺激を与えたい」と帰ってきた2度目の現役生活。自分より一回り以上若い選手たちとツアーを回る中で、しっかりと何かを残せた自負はある。「彼女たちに言い訳ができないものを、私が作り続けた。コーチに『伊達をみろ』と言われたら、返す言葉がなかったと思う。刺激になれた」。引退セレモニーですでに引退した仲間や、現役の後輩たちに花束を渡されると初めて涙があふれた。
現役生活を支えたのは、その苛烈なまでの闘争心。時には観客にも声を荒らげるなど波紋を呼んだこともあった。「負けることが大嫌いだった。『コートに立つと怖い』と言われてきたけど、勝負にこだわってきたものと思って、お許しください」と、おちゃめにファンに謝罪した。今後は未定ながら、何らかの形でテニスに関わっていく。2度の現役生活で世界のテニス史に強烈なインパクトを刻んだ46歳。引退セレモニーの終わり。その門出を祝うかのように、夕焼けの空には鮮やかな虹がかかっていた。