内村 まさか負傷棄権…消えた個人総合7連覇、連勝記録40でストップ
「体操・世界選手権」(2日、モントリオール)
男子予選が行われ、個人総合7連覇の期待が懸かった体操ニッポンのエース内村航平(28)=リンガーハット=は、2種目目の跳馬で左足首を負傷し、3種目を終えた時点で途中棄権を決断。まさかのアクシデントにより、大会連覇は6、12年ロンドン、16年リオデジャネイロ五輪での2連覇も合わせた世界大会連覇記録も8で途切れた。08年11月の全日本選手権から約9年にわたって続いてきた個人総合連勝記録も「40」でストップした。
永遠に続くかと思われた“絶対王者”の伝説は、まさかの形で終わりを迎えた。
「すねが真っ二つに折れたかと思った」
2種目目の跳馬。試合ではリオ五輪以来の“解禁”となった高難度の大技「リ・シャオペン」の着地を決めた直後、内村の表情が苦痛でゆがんだ。左足首を押さえてフロアに座り込む。足を引きずって平行棒に向かったが、着地で踏ん張りきれない。次の鉄棒で内村の姿はなく、体操界としては異次元の域に達していた連覇、連勝記録はすべて途絶えた。
9年ぶりの“敗戦”。誰に負けたわけでもなく、けがでの途中棄権という形だったが、「けがをするのはまだ下手だから。万全の状態で演技ができないので諦めはついた」と、内村は松葉づえ姿で淡々と現実を受け止めた。
覚悟はしていた。リオ五輪で負傷した腰と右足首に加え、肩や首にも慢性的な痛みを抱える。昨年のリオ五輪で0・099点差に迫られたオレグ・ベルニャエフ(ウクライナ)ら海外勢や若手の成長に自身の不調もあり、「自分のことでいっぱい、いっぱい。(周囲を)気にしている余裕はない。オレグの方が上にいくんじゃないか」。陥落は予期していた。
連覇や連勝、個人の記録には興味は示してこなかった。「日本の美しい体操を世界に示したい」。そう言い続けてきた。ただ、頂点にいることの責任と重圧は常に感じていた。「負けた方が楽になれるのかもしれない。“地獄”ですよね」-。
当たり前のように勝利を期待され、当たり前のように勝ち続けてきた。金メダルを獲得したロンドン五輪以降は、それまで試合になれば自然と湧き上がってきた気持ちの高まりがなくなった。「毎回跳ぶときが怖い。“この跳躍で自分は死ぬかも”と何回か思ったこともある」と話す大技リ・シャオペンに挑んできたのも「それぐらい思わないと、跳べるっていう気持ちになれない」。死の危険を感じるほどでなければ本気になれない。それほど王者は孤独だった。
「集大成」と話す3年後の東京五輪を見据え、日本体操界初のプロに転向し挑んだ世界選手権で、待ち受けていたのは敗戦と岐路。負担が大きい個人総合を今後も続けるのか。
「違う形で東京五輪までやってもいいかもしれない。でも、それは逃げじゃないかと思う部分もある」。王者の肩書から解放された28歳は葛藤の中にあるが、再起への決意だけは揺るぎない。「しっかり治して、はい上がってやろうと思う」。このままでは終われない。絶対に新たな伝説を紡ぐ。