長谷川穂積氏 高い壁に病みつき! 東京五輪先取り「スポーツクライミング」初体験

 スポーツクライミングを体験する長谷川穂積氏
3枚

 デイリースポーツのボクシング評論「拳心論」でおなじみ、元世界3階級制覇王者、長谷川穂積氏(36)が新たな試みに挑むシリーズ「ボクが○○してみた!」。今回は2020年東京五輪で追加種目に決まったスポーツクライミングを初体験した。大阪・枚方市の常翔啓光学園中学・高校に今年5月に完成した3種類のコースがある「常翔啓光クライミングウォール」を戦いの舞台に奮闘した。

  ◇   ◇

 昨年引退してからもトレーニングは続けてきた。それでもスポーツクライミングはまったく未知の世界だ。この競技には登った高さを競う「リード」、登りきった回数を競う「ボルダリング」、登りきった速さを競う「スピード」の3種目がある。その3つの壁が国内で唯一1つの建物にそろっているのが「常翔啓光クライミングウォール」だそうだ。

 ワンダーフォーゲル部顧問の北田広明先生、森昌範先生から説明を受け、選手として実績のある小林由人先生の指導でリード壁の前へ。15メートルの壁は頭の上にのしかかるような前傾で、大きさに圧倒される。腰骨に安全ベルトをつけて2人1組。ロープを持つ人はビレイヤーと呼ばれ「ビレイヤーが命を預かります」と森先生が説明してくれた。でも、正直ちょっと不安だ。

 「色によって難易度が変わります。緑を選んで行ってみましょう」と小林先生。いきなり?「大丈夫ですよ」。3人の先生は笑っている。確かに緑のホールドはガッチリつかめそうな大きさだ。

 リード壁は12メートル以上が規定だが、初体験なのでゴールを8メートル付近に決めてスタート。自分でロープを引っ掛けながら登っていく。ビレイヤーが地上でロープの長さを調整しているのでクライマーは手を離しても宙づりになるだけで、落ちることはない。

 3メートル付近を過ぎて急に傾斜がきつくなった。ここで時間をかけたらさらにつらそう。大きく手を伸ばして早く進んだ方がよさそうだ。今度は前腕がつらくなってきた。少し休みたいけど両手でホールドにつかまっているから腕には力が入りっぱなし。しかも、下を見たらめっちゃ怖い。クライミング特有のかけ声「ガンバ!」と部員たちが声援をくれる。エールに元気をもらって震える腕でゴール。「1回目でそこまで登った人はいませんよ」と先生方は言ってくれた。ロープでゆっくり降りてくるのは気分がいい。

 終わってみたら前腕はカチカチだった。ボクシングでは特に肩まわりの筋肉にくるが、前腕がここまではっているのは初めての経験。スマホを持っただけで手が震えて落としそうだ。

 体幹や指の力はもちろんだが、小林先生は「脚力がポイントです」と言う。僕は脚力が強いが、確かにふくらはぎに疲労がある。重心移動でいかに体が安定する場所を探すか、体力の消費を最小限にいかに効率よく登るかが、クライミングの“マラソン”と呼ばれるリードでは重要みたいだ。うまい選手は、高いところでも何食わぬ顔で片手ずつぶらぶらして疲れをとっている。僕は両手でホールドをつかんでいてそんな余裕はなかった。

 せっかくだから一番上まで行きたいと、2度目の挑戦。今度は13メートル付近にゴールを設定してスタートした。なんとなく前より体の使い方がわかる。「うまくなってる!」と部員たちも驚いてくれた。

 しかし、乳酸がたまった前腕は限界。10メートルほど上がったところで両手がホールドから離れしまい宙づりになってリタイアした。あと少しだったが、1回目の疲労が残っていて限界だった。

 最初から13メートルに設定していればいけたかも…。そんな悔しさを味わいながらも、これがこの競技の面白さだと気づいた。部長の松田冬司君(高2)は「登り方が決まっていないから一人一人違う登り方ができる。できなかったコースを登りきれた時は最高」と話してくれた。

 スポーツの妙味は達成感。僕自身も練習で目標を立て「今日はこのカウンターが打てた」などと一つずつクリアしてきた。それが試合での達成感につながる。スポーツクライミングでは「今日はここまで来れた、次はあそこまで行こう」と練習から達成感が味わえる。それがとてもわかりやすい。

 体験が終わって、僕もすぐ「明日もやりたい」と気持ちが湧いてきた。「明日ならあそこまで行けるはず」。高い壁を見上げてそう思った。(ボクシング元3階級制覇王者)

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