相撲協会 アメとムチで貴乃花親方封じ 史上初理事解任も2月の理事選出馬認める
大相撲の元横綱日馬富士(33)による暴行事件で、日本相撲協会は28日、東京都墨田区の両国国技館で臨時理事会を開き、貴乃花親方(45)=元横綱=に対し理事解任を決議した。2階級降格で役員待遇委員となる。巡業部長でありながら秋巡業中に起きた事件の報告遅れ、聴取の再三の拒否など義務違反を問われた。来年1月4日の臨時評議員会で承認されれば、処分が正式決定する。協会は史上初となる理事解任の厳罰を下す一方で、来年2月2日に予定する理事選出馬は認め、当選すれば理事復帰が可能。硬軟織り交ぜた処分で、貴乃花親方を封じ込めた形だ。
事件発生から33日、混迷し続けた暴行事件にやっと一定の結論が出た。約1時間の理事会後、八角理事長(元横綱北勝海)は「貴乃花親方の行為は理事の忠実義務に著しく反するもの。解任を評議員会で協議して頂くことで議題に上げた。全会一致で招集を決議した」と声を張った。
処分は来年1月4日の評議員会で正式決定となるが、理事の解任となれば協会初。巡業部長は春日野広報部長(元関脇栃乃和歌)が兼務する。2階級降格して役員待遇委員となるのは、理事を辞任した元日馬富士の師匠、伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士)と同じだ。
加害者側と被害者側が同格降下という異例の“厳罰”。危機管理委員会の高野利雄委員長は「理事、巡業部長として誠実な職務をしていなかった。伊勢ケ浜さんは辞任された。いきさつが違う。影響はない」と説明。会見では配布した5枚の文書を読み上げ、理事としての責任放棄を問い、断罪した。
報告の怠り、貴ノ岩、自身の聴取を計9度も拒否。敵対し続けた行為に協会としてはきっちりケジメをつけた。一方で事実上は“甘い”裁定でもある。
理事長は「1月場所の後の理事選に立候補することは可能。師匠として部屋の弟子の指導もこれまで通り行う」と降格案に期間を設けず、来年2月2日に予定する理事選には支障がないとした。25日の聴取には弁護士を同伴するなど、不服なら法廷闘争に打って出る可能性も否定できない貴乃花親方に理事復帰の温情措置を与えた。ムチとアメを合わせた懐柔策を講じ、事態の収束を図った。
理事会の決議に対し、八角理事長は「何かあるか?」と貴乃花親方に発言を求めたが、「何もない」と弁明は一切しなかった。また外部理事が「辞任する意思はありますか」と問うと、「ありません」と辞任は拒否。理事会の判断に自身を委ねた。
ただ前日発売の週刊誌では自らの正当性を訴え、徹底抗戦をにおわせていた。また2月の理事選に当選すれば春場所後には理事復帰が可能となるが、理事を選任するのは評議員会。「著しい義務違反」で1月に解任した理事が、わずか3カ月後に復帰することを認めるだろうか。一応の収束を見せた“貴の乱”だが、火種はくすぶる。