貴ノ岩 172日ぶり再起星も 裏口から会場入り、協会注意 貴親方は無断欠勤疑い
「大相撲春場所・初日」(11日、エディオンアリーナ大阪)
元横綱日馬富士に暴行を受け頭部を負傷した影響で2場所連続全休した西十両12枚目の貴ノ岩(28)=貴乃花=が3場所ぶりに復帰し、翔猿(追手風)を寄り切って172日ぶりの勝利を挙げた。大声援に応える復活劇の一方で、正面入り口ではなく裏口から会場入りし、ルール違反を犯して協会から注意を受けた。先日、内閣府に協会を告発した師匠の貴乃花親方(45)=元横綱=は姿を見せずに無断欠勤を疑われ、土俵外では師弟で問題視される初日となった。一人横綱の鶴竜(32)=井筒=は小結千代大龍を力強く寄り切り、先場所平幕優勝の関脇栃ノ心(30)=春日野=も平幕宝富士を寄り切った。
3場所ぶりに貴ノ岩が戻って来た。さまざまな感情を押し殺すように常に険しい表情。大きな拍手と声援の中、土俵で変わらぬシルバーのまわしが輝いた。
立ち合い、翔猿をよく見て踏み込んだ。押し込まれたが強烈にいなして相手を崩すと右差し。あとは無我夢中。体ごと相手を寄り切ると、そのまま土俵下に吹っ飛ばした。
ひと息吐き、ホッと安どの表情も一瞬。支度部屋では付け人が守るようにガード。質問には「一生懸命やるだけ」、「必死に一生懸命やるだけ、それだけ」、「一生懸命やるだけ」と3連発。その後は背中を向け表情を硬くした。帰り際も「一生懸命」を繰り返し、帰りの車に乗り込んだ。
ピリピリ厳戒の中、172日ぶり再起星。元日馬富士による暴行事件が昨年11月に発覚して以降、角界は揺れた。加害者側だけでなく、被害者側の師匠の貴乃花親方も理事を解任。自身も元日馬富士を引退に追い込んだとされ、母国モンゴルで非難を受けた。笑顔などあるわけがなかった。
地道にリハビリを続け、本格的な稽古再開は京都の宿舎に入った2月26日以降。師匠は「本場所の土俵はまた違いますから。恥ずかしい相撲は取りたくないというのは強いと思う」と、慎重に見極め、今月8日に何とかGOサインを出した。
被害者であることを考慮され、2場所全休でも今場所は十両に踏みとどまる救済措置。まずは勝ち越しが、土俵に戻してくれた人々への恩返しになる。
大きな応援を受けた中、裏口から入場するルール違反を無断で犯したのはファンにとっても残念。異様な注目はあるものの地方場所は横綱、大関でも正面から入場しファンに応えるのがルールだ。
春日野広報部長(元関脇栃乃和歌)は「何年関取をやっているんだ」とあきれ顔。協会から注意を与えた。再起の一歩に、自らみそを付けたことだけはもったいない。