栄強化本部長の娘・希和が逆風はねのけ4連覇に王手 パワハラ騒動…代表辞退も考えた
「レスリング・女子W杯」(17日、高崎アリーナ)
女子で五輪4連覇を成し遂げた伊調馨(33)=ALSOK=が日本協会の栄和人強化本部長(57)からパワーハラスメントを繰り返し受けたとする告発状が内閣府に出された問題が発覚後、初めて国内でトップレベルの大会が開かれた。栄強化本部長が体調不良で不在の中、予選リーグが行われ、初戦のスウェーデン戦では長女で65キロ級代表の栄希和(24)=ジェイテクト=が4-2で逆転勝ちした。日本はこの日3戦全勝でA組1位となり、4連覇に王手。18日は優勝決定戦でB組1位の中国と対戦する。
人生最大の重圧から解放されると、涙があふれて止まらなかった。栄は序盤「頭が真っ白だった」と、緊張で動きが硬くなり、先に2ポイントを奪われた。第1ピリオド終了間際に追いつくと、第2ピリオドに4-2と逆転。そのままリードを守り切ると感極まって顔を押さえた。
「内容は良くなかったけど、何が何でも勝つしかなかった」
パワハラ騒動に揺れる女子レスリング日本代表。その中で誰よりもプレッシャーを感じていたのが、休養中の栄強化本部長の長女である希和だった。
今大会は過去の実績なども踏まえて代表に選出されたが、騒動が明るみに出てからは悪い意味での注目を浴びるようになった。「(批判は)耳に入らないようにはしているが、多少入ってしまう」。一週間前には練習拠点である至学館大・谷岡郁子学長に「私は(代表を)辞退した方がいいですか」と相談するほど追い詰められた。
それでも出場を決意したのはレスリング選手としての意地だった。「この状況で自分が出て大丈夫なのか、と怖い気持ちもあった。でも、私が出て勝つのが(報いる)一番の形だと」。一選手として、勝つことだけが存在価値を証明する方法だった。
父を巡るパワハラ問題の行方は不透明だ。それでも“栄の娘”である事実は変えられない。「今までにない状況の中で勝てたことは自信になる。心細い気持ちもあったが、父がいない中でも父に教わったレスリングができたと報告したい」。逆風をはねのけたこの経験は、必ず強さの原動力になる。