山県、復権V 屈辱バネに5年ぶり2度目の美酒「他は何も見えていなかった」

 「陸上・日本選手権」(23日、維新みらいふスタジアム)

 今夏のジャカルタ・アジア大会代表選考会を兼ねて行われ、男子100メートルは日本歴代2位の10秒00を誇る山県亮太(26)=セイコー=が10秒05(追い風0・6メートル)の大会タイ記録で5年ぶり2度目の優勝を飾った。アジア大会代表に内定した。ケンブリッジ飛鳥(25)=ナイキ=は10秒14で2位となり、代表入りが確実。9秒98の日本記録を持つ桐生祥秀(22)=日本生命=は10秒16の3位に終わり、100メートルでの代表入りは絶望的となった。24日に行われる200メートルで切符を狙う。

 山県には自分の走る道しか見えていなかった。スタートの音に反応し、抜群のダッシュで前に出た。追いすがるライバルを置き去りにしてヴィクトリーロードを駆け抜けると「よっしゃ!」と、ほえて右拳を握った。

 「自分のレースに集中できた。集中というのは目線。自分の走るレーン、どれだけそこだけを見れるか。他は何も見えていなかった」。昨年の日本選手権で6位に敗れて以降、日本人に負けなし。「重圧もあった」。それでもすべてをねじ伏せ、5年ぶりに日本の頂に駆け上がった。

 挫折の1年だった。昨年の日本選手権で世界選手権代表を逃すと、9月には日本人初の9秒台の偉業を、ずっと切磋琢磨(せっさたくま)してきたライバルの桐生に先を越された。「悔しかった。かなり喪失感は大きかった」-。それでも山県は桐生にメッセージを送った。「おめでとう。先を越されたよ」。現実を受け入れ、前だけを向いた。

 「今できることをやろう」

 いつだってそうだった。父浩一さんはいう。「息子は予定日より2カ月早く生まれてきた。本当に生きるか死ぬかだった。彼の自己ベストは、いつも大きなけがの後。逆境を超えていくのが彼の生き方」。苦難を超えて、強くなってきた。

 これで8月アジア大会代表に内定した。アジアの進化は著しい。特に中国勢は19日には謝震業が9秒97、22日には蘇炳添がアジア記録に並ぶ9秒91をマーク。もはやアジアでも9秒台は当たり前の時代に突入しつつある。20年東京五輪に向けて、戦いはさらにし烈になる。「次は国外のライバルとの戦い。日本代表として、まずアジアで1番になりたい」。自負がある。「誰よりも僕が100メートルのことを1番考えている」。確信がある。自分はまだまだ速くなれる。

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