長谷川穂積氏が多彩な攻撃に四苦八苦 フェンシング日本のエース西藤選手とバトル!

 デイリースポーツ・ボクシング評論「拳心論」の元世界3階級制覇王者、長谷川穂積氏(37)が体を張る挑戦シリーズ。今回は、東京五輪でも注目されそうなフェンシングを初体験した。昨年の世界選手権の男子フルーレで銀メダルを獲得した日本のエース、西藤俊哉(21)=法大=に真っ向勝負を挑んだ。まず、2012年ロンドン五輪の男子フルーレ団体銀メダリストの三宅諒(27)に指南を仰ぎ、いざ-。

 フェンシングとボクシングは似ている。そうずっと思っていた。参考になるかと、一時期はよく映像を見ていたほどだ。共通点はフットワーク。今回の挑戦も、踏み込み、間合いが通用すれば、あわよくば勝てるんじゃないか。「道場破り」のような気分で味の素ナショナルトレーニングセンターを訪問した。

 フェンシング場で待っていてくれたのは、三宅選手と西藤選手。西洋の騎士のような姿を見て思ったのは「かっこええスポーツやなあ」。三宅選手が「フェンシングは『フェンス』という言葉からきていて、名誉を守る、約束を守るという意味。だから相手を殺さない。血が出たら負けという意味で、白いユニホームなんですよ」と教えてくれた。ボクシングも決闘だけど、こっちの由来はなんかかっこいいぞ。

 剣を持たせてもらうと意外と軽い。でも、なんかワクワクするぞ。そうか、これは男の子が大好きな「侍ごっこ」「チャンバラ」の感覚だ。

 この日の最終目的は西藤選手との一騎打ち。その前に三宅選手に基本を習う。「ボクシングとフェンシングを掛け合わせたスタイルでいきましょう」と三宅選手。僕はボクシングではサウスポー。でも、剣は右で持つ方がいいという。

 ボクシングでは利き手の左が後ろ、ジャブを打つ右が前。同時に右足が前になる。でも、フェンシングはガードもジャブもない。剣を持つ手が前だ。僕が右手に剣を持つと、足も右が前。つまり、足はボクシングと同じ構えになるのだ。西藤選手はぼくより身長が10センチも高い。リーチの差は歴然だから、足を生かすのが得策だと三宅選手は言う。

 基本を習っていよいよ実戦。西藤選手のフルーレには攻撃権が入れ替わるルールがあるけど、今回は特別ルールで攻撃権にかかわらず、有効面(胴体)を突いた方にポイントが入ることにしてくれた。すると、なんと相打ちぎみで先制。いけそうな気がするぞ。

 でも、舞い上がったのは一瞬だった。西藤選手のスピード感と次々に繰り出す攻撃のバリエーションには戸惑うばかり。上に剣を掲げて構えたり、剣のしなりで背中を狙ってきたり。三宅選手は「フェシングは詰め将棋」と言っていたが、まったく動きが読めない。きっと国際大会では攻撃パターンの読み合いも重要なんだろう。

 バリエーションがない僕は、ボクシングで言うカウンター一本で勝負。でも、長い剣の先で的を突くのは本当に難しい。フットワークが似ているとはいえ、それは前後の動きだけ。ボクシングにある横の動きがフェンシングにはないので戸惑うばかりだ。

 また、ボクシングは攻撃した手、踏み込んだ足は瞬時に引くのが基本だが、フェシングは出しっ放し。重心の位置も違うのでスムーズに動けない。縦長のピストと呼ばれるコートでは、僕の動きは凝縮されて、力の30%くらいしか出せない感じだ。ポイントが取れるのはこの日の特別ルールによる相打ちだけだった。正直、何十回、何百回やっても勝てそうな気はしなかった。

 でも、ひたすら楽しかった。心理戦や戦術の奥が深い一方で、実は相手を突けば勝ちという単純さに「チャンバラごっこ」のワクワク感。そして「プレ(準備はいい?)」、選手は「ウィ(はい)」とフランス語が飛び交うかっこよさ。たった一日の体験だったけど、またぜひやってみたい。

 試合を終えて「ありがとうございました」と防具を脱いだ西藤君もイケメンだなあ。それに、すごい選手になりそうなオーラがある。東京でメダルを獲る前に“対戦”できて本当によかった。2020年へ向けて、心から応援しています。(元世界3階級制覇王者)

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