「ラグビー・日本選手権兼トップリーグ順位決定トーナメント・決勝、神戸製鋼５５－５サントリー」（１５日、秩父宮ラグビー場）

　強い神戸製鋼が帰ってきた。社会人チーム同士の決勝では過去最多の５５得点、過去最大の５０得点差で３連覇を狙うサントリーを下した。トップリーグ（ＴＬ）では初年度の０３－０４年シーズン以来１５季ぶり２回目、日本選手権は００年以来１８大会ぶり１０回目の優勝を果たした。今季加入した、ニュージーランド代表１１２キャップのＳＯダン・カーター（３６）が勝利への指針を植え付ける一方で、１６年に５３歳で亡くなった平尾誠二さんの思いを振り返って臨んだシーズン。名門は豪快に復活した。

　平尾さんも笑っていた。名門に訪れた１８年ぶりの歓喜。表彰台の上で、高らかに凱歌（がいか）を上げる選手たち。フランカー橋本大輝の手には、晴れやかな笑顔の恩師の遺影があった。

　「平尾さんが亡くなる前に、優勝しようと約束していました。本当に、もう、これ以上のことはないくらいうれしかった」（橋本）

　かつて日本選手権７連覇の金字塔を打ち立てた名門。しかし、０３年にトップリーグ初代王者となって以降、長いトンネルに迷いこんだ。黄金期の中心選手だった平尾さんは、ＧＭや総監督として、立て直しに奔走してきたが、２年前に５３歳の若さで亡くなった。

　今季の快進撃を根底で支えたのは、平尾さんたちが築き上げてきた歴史だった。今季就任したスミス総監督は、阪神大震災の「復興のシンボル」とされた高炉の解体現場に出向くなど「レガシー活動」を発案した。過去を知ることが、競技に取り組む姿勢につながるとの思いからだった。

　神戸製鋼が日本選手権７連覇を達成した２日後、阪神大震災に見舞われた。黄金期のラグビー部は、復興に向けた勇気の象徴でもあった。橋本は「今までの歴史をまず学んだ。きついことから逃げず、率先してやっていく『スティールワーカー（製鋼所工員）』を目指そうと自分たちで決めた」と話す。歴史という揺るがない“鉄”の土台の上で、チームは一つになった。

　この日、２トライをマークした山中は、１１年にひげの育毛剤が原因でドーピング違反となった時に、解雇の危機を平尾さんに救ってもらった。２年間の資格停止期間中も「絶対に復帰できる」と何度も励まされた。「ずっと期待してもらっていたから。『優勝しましたよ』って報告したい」と、胸を張った。

　天国に旅立って２年。愛したチームが、選手が、ついに“ミスター・ラグビー”の思いを結実させた。