【歴代担当記者が振り返る稀勢の里(上)】明るく冗舌、イメージと真逆の素顔
惜しまれながら土俵に別れを告げた元横綱稀勢の里の荒磯親方。その実直な人柄、素顔を歴代担当記者が語る連載企画を3回にわたってお届けする。
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元横綱稀勢の里の萩原寛は、素顔はめっぽう明るくて冗舌な男だ。土俵上では緊張し切った表情を見せ、取組後の支度部屋では目を閉じ無言を貫く。テレビで見ているファンにしてみれば、きっと真っ正直で無口で頑固なんだろうと感じたとしても無理はない。
明るく冗舌な素顔は朝稽古や巡業先ではしばしば見せているが、公の場では2年前の2017年1月24日の出来事が忘れられない。前日23日に初場所千秋楽で初優勝を果たし、悲願の横綱昇進を決めたばかり。朝の田子ノ浦部屋には大勢の報道陣が詰めかけ、稽古場の上がり座敷には自身が1面を華々しく飾ったスポーツ各紙が並べられた。
その様子を満足そうに見渡した後、デイリースポーツを太い腕を伸ばして拾い上げた。そしてちゃめっ気たっぷりの笑みを浮かべてこう言った。「デイリーが1面なんだ。これが一番うれしいね」。中学まで野球少年だっただけに、阪神タイガースを差し置いて本紙の1面を奪い取った“快挙”の意味を知っていたのだ。
少年のように無邪気な笑顔を見せることもある。名古屋場所前の7月3日が誕生日。朝稽古が終了するのを待って、報道陣があらかじめ用意しておいた誕生ケーキをプレゼントする。何年か前から恒例になった行事で、ケーキにはチョコレートやら色つきクリームで自身の似顔絵が描かれている。それをまわし姿のままうれしそうに見つめながら「ローソク吹き消すよ。写真の準備いい?」などとはしゃいだ様子を見せる。報道陣はこの笑顔がたまらなくて毎年続けているようなものだ。
引退して親方になれば、いずれNHK解説者に起用されるだろう。その時、現役時代のイメージを持っている人はきっと驚くに違いない。あまりの明るさと冗舌さに-。(2006年~デイリースポーツ・相撲担当、松本一之)