川内優輝、日の丸よりも重かった“公務員”の重圧 いざ「言い訳のできない」プロへ
「びわ湖毎日マラソン」(10日、皇子山陸上競技場発着)
今秋のマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)出場と、世界選手権(ドーハ)代表選考会を兼ねて行われ、4月からプロに転向するため、これが公務員ラストマラソンとなった川内優輝(32)=埼玉県庁=は、2時間9分21秒で日本人2位の8位となった。川内はMGCよりも世界選手権を優先する意向を示し、世界選手権代表入りは確実となった。
堂々と先頭争いを繰り広げたかと思えば、勝負所の30キロで右ふくらはぎがつり苦悶の表情で失速。それでも最後には不死鳥のように蘇り、日本人2位に食い込んだ。公務員としてのラストマラソンも、見ている者を飽きさせない“川内劇場”。世界切符はほぼ手中。かねてから、誰もが目標とする東京五輪選考会のMGCよりも、前代未聞の午前0時スタートで苦手の暑さを回避できる世界選手権を優先する意向を示してきた男は、改めて「ドーハドーハドーハと思って走った。ドーハだけに全てを懸けます」と、宣言した。
4月からはプロランナーとしての生活が始まる。決断の理由には、ある葛藤があった。入賞まで3秒届かず9位に終わり、代表からの引退を表明した17年ロンドン世界選手権後に思った。
「代表を辞める前に、仕事を辞めるのが先じゃないか」-。
弟がプロに転向し、ランナーとして充実の日々を送っていた。自身は毎日8時間勤務しながら、練習は2時間。公務員として働きながら、走ることは誇りでもあったが、「比重が変わったらどうなるのか。練習時間が増えて、ケアにあてられる時間もできれば」。アスリートとして興味が湧いた。
日の丸を背負う以上に、公務員で走ることはプレッシャーだった。「見方がいい人は“働きながら頑張っている”って言ってくれる。でも悪い人は“公務員で暇だからできる”と言う」。凡走すれば、誹謗中傷の手紙が届いた。「日本代表になっても、一挙手一投足が注目されても、有休を使って、長く休むというわけにはいかない。民間企業なら社長命令でっていうこともあるんでしょうけど。やはり走ることと、仕事と切り離せない。がんじがらめになっていた。だったら競技に専念して、すべて自分の責任の上で走ろうと。言い訳のできない環境に身を置いてみたかった」。重圧との葛藤。公務員ランナーとしての限界を感じた中で、モットーである“現状打破”に踏み切った。
4月からはプロ生活が始まる。同月には昨年アッと驚く優勝を飾ったボストンマラソン、そして、10月には世界選手権が控える。日本記録をマークした大迫傑や、設楽悠太ら若手が台頭している中、日本男子の低迷期をけん引してきた32歳の心にはフツフツと沸き上がるものがある。「もっと成長できると信じている。秋になれば見てろよ、という気持ちでいます」。間もなく幕を開ける“川内劇場第2章”から目が離せない。