【北尾光司さん悼む】「辞める」発言一転「なかったことにして」
大相撲の第60代横綱双羽黒で、プロレスラー、総合格闘家としても活躍した北尾光司さんが2月10日午前7時30分、慢性腎不全のため千葉県内の病院で死去していたことが29日、分かった。
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今でも頭にこびりついて離れない。入社して丸1年がたった91年4月1日。北尾さんはSWSの神戸ワールド記念ホール大会で、ジョン・テンタに反則負けした揚げ句、マイクを握って「八百長野郎!」と吐き捨てた。
普段はのんびりした話し方で、酒が入ると目がとろんとして愛きょうたっぷりの顔になる北尾さん。だが、一度スイッチが入ったら誰も止められない性格だった。神戸の2日前の東京ドーム大会でテンタにピンフォール負け。リベンジ戦の前の控室では「ふざけやがって」とパイプ椅子を蹴散らし、嵐の予兆を醸し出していた。
問題発言の翌朝、宿泊先のホテルの館内電話で直撃した。相撲では幕下だったテンタに横綱の自分が連敗する悔しさを吐露し、「昨日の発言に悔いはない。辞める覚悟はできている」と思いの丈をぶつけてきた。
その後、部屋から出てきた北尾さんに昼飯に誘われた。すでに冷静さを取り戻していて「朝の話はなかったことにしてほしい。(SWSのスポンサーであるメガネスーパーの)田中社長に謝罪してきた」と懇願された。
その日、入社以来初めてデスク指令を断った。「朝の話がヤツの本音だ。洗いざらい書け」と言われたが、「もう一度チャンスをあげてください」と突っぱねた。願いはむなしく角界、新日本プロレスに続きSWSも追放されてしまったが…。
天龍スペシャル・ウイスキー1本一気飲みは私の勝ちです(北尾さんは救急車で運ばれた)。酒席ではかわいらしかった北尾さんのご冥福を心からお祈り申し上げます。(デイリースポーツ・秋山哲範)