【東京へ駆ける・高橋尚子さん(1)】9・15マラソン代表選考会「MGC」どうなる?
2000年シドニー五輪のマラソンで、日本女子陸上界初の金メダルを獲得した高橋尚子さん(46)が、東京五輪への期待や9月15日に行われる東京五輪マラソン代表選考会「グランドチャンピオンシップ(MGC)」の現段階における展望、あらためて振り返る自身の選手生活についてなど、胸に秘めた思いを語った。
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-東京五輪に期待していることは。
「シドニー五輪は自分の人生が大きく変わった瞬間でもありました。アスリートが思い切り挑める五輪になってほしい。最後に選手の背中を押すのは会場の観客や応援の大きさ。日本のみなさんの思いを一つにして、最後の環境を作っていけたらいいですね」
-日本オリンピック委員会(JOC)や日本陸連では理事の要職にも就いているが。
「大会組織委員会のアスリート委員会の委員長もしているので、選手としての経験を環境や設備などにつなげていくような形の仕事も多かったです。これからの一年は、全国各地で東京五輪を楽しみにしてもらえるようなムーブメントを広げていけたら」
-東京五輪のマラソンへの期待は。
「華やかな銀座とかを走れるし、自分が現役だったら良かったな(笑)、と思えるほどすばらしい環境。MGCで本番と同じようなコースを体験できるのは大きい。アドバンテージを生かしながら、日本選手が支配するようなレースを期待したいです」
-陸上以外で楽しみにしている競技やアスリートがいれば。
「少し交流があるのでスポーツクライミングの野口啓代さんですね。取材で自宅に行かせてもらい、彼女のすごさを教えられました。日本は世界でもトップクラスの実力があるし、新競技の王者に輝く姿を見たい。あと、テニスで大坂なおみさんが日本代表として出たらどうなるんだろうとか、すごく楽しみにしています」
-しばらく女子マラソンは日本勢が低迷しているが、原因はどこにあると思うか。
「いろいろな要素があると思いますが、私たちの時代と比べると圧倒的に練習量が少なくなっていると感じます。あと、流れってあると思うんです。私が最初に(98年の名古屋で当時の)日本記録を出した時は2時間25分台。それから21分台になり、19分台になりました。突破口が開くと、あとの選手が続きやすくなります。安藤(友香)選手が(17年の名古屋で)2時間21分台を出し、若い選手が21分台、22分台を続けて出したように、もう一段階上がる選手が出てくると、そこからはすごく早い。もう一度復活するのではないかと思います」
-対外国勢となると、日本選手は厳しい戦いを強いられている。
「女子の日本選手で2時間20分を切った選手は3人います(=高橋尚子、野口みずき、渋井陽子)。19分を切れば海外の選手と争うだけの力になり得ます。私は自己ベストが19分台とはいえ、最高潮で出たわけではありません。18分、19分の力を持った中での19分。日本の女子の選手ができないことはない証明だと思います。私から見ても、素質的に20分を切る選手は何人かいます。力を発揮すれば十分に戦えます」
-対策はあるか。
「私がいつも意識していたのは、自分でどんな武器を持てるか。自分らしさをどう生かすかでした。今でも(04年アテネ、08年北京両五輪女子マラソンで2大会連続銀メダルを獲得したケニアのキャサリン)ヌデレバさんと話す機会があるんですが『あんな泥くさい、こつこつした練習は私たちにはできない。毎日40~50キロを走り込んで、練習を重ねるような仕方はできない』と認めてくれました。それに対して私は『スピードにはついていけないけど、スタミナの部分は負けていない』と話しました。ここだけは海外の選手にも負けていない、という武器を持って挑むことが、特に五輪では自信を持ってスタートラインに立てることにつながります」
-現段階でMGCはどのようなレースになると予想するか。
「男子はスローペースになると思います。暑さもあるだろうし、2人に入りたいという思いがあるでしょう。20キロぐらいまではある程度、相手の様子を見ながらのスローペースになるのかなと。そこから絞り込みが始まり、30キロぐらいからだれかが一気に仕掛けてくるパターンになるかと。4強とも言われていて設楽(悠太)選手、大迫(傑)選手、服部(勇馬)選手、井上(大仁)選手が中心。大迫選手や設楽選手のような、タイムを持っている選手は気持ち的にもすごく有利です。ただ、今までのレースの中で、自分でレースをコントロールして勝てている井上選手や服部選手の主導権の握り方によっては読めない展開になり得ます」
-女子は。
「最初からハイペースにはならないと思います。ただ、名門・天満屋さんは3人(=前田穂南、小原怜、谷本観月)が選ばれており、スローペースを嫌うのではないでしょうか。3人いる中でチーム戦を繰り広げながら、ある程度の速さで進むと予想します。いかに自分のレースに引き込んでいけるかがポイント。男女とも30キロ以降が一つの勝負どころかなと」
-女子のキーマンはだれだと思うか。
「基本的には松田(瑞生)選手、鈴木(亜由子)選手、前田(穂南)選手だと思います。天満屋さんは、ある程度のところまでいくと、前田選手が自信を持って流れを読みながら進むでしょう。圧倒的な切れ味がある鈴木選手や、ラストスパートに自信を持つ松田選手を含め、有力どころが残ってくると思います。あとはベテランの福士(加代子)選手がどう面白くしてくれるか。どちらかというと女子の方が個性が出てくるかなと」