【小出義雄さん悼む】「人生は楽しまなきゃ、もったいないよ」
陸上の女子長距離の名指導者で、五輪金メダリストの高橋尚子さんらを育てた小出義雄氏が24日午前8時5分、肺炎のため千葉県浦安市の順天堂大浦安病院で死去した。80歳だった。選手を褒めて伸ばす指導と明るく豪快なキャラクターで知られ、高橋さんとの二人三脚は大きな注目を浴びた。近年は入退院を繰り返して現場に出る回数も減り、3月末で指導者を勇退していた。
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小出さんが高橋尚子さんらを指導していた2000年代、代表を務めていた佐倉アスリート倶楽部の事務所に何度となくお邪魔した。午前の練習を終えたある夏の日、行きつけのそば屋に連れて行ってくれた。
天ぷらそばを注文すると、すかさず「ビールもどうだ?」と勧められた。その後、別の取材を控えていた私は「気持ちはやまやまですが…」と、やんわり断った。真っ昼間ということもあり、同行していたほかの人も、だれもビールを注文しなかった。
小出さんは私の顔をチラッと見ながら「そうか…。でも人生は楽しまなきゃ、もったいないよ。ぼくはのむよ」と言い、ビールを注文。私の胸中を見透かしたように、一人、胃袋へと流し込んだ。
ある年の正月には、練習後に催された新年の宴に同席させてもらった。一升瓶を手に、酌み交わす日本酒が止まらなくなり、たまりかねた関係者が分からないように隠す一幕も。酒は人生そのものだったのかもしれない。
豪快に見えて、気配りの人でもあった。多忙のあまり、年賀状の返信が遅れていると「いただいたのに申し訳ないね」と頭を下げられたこともある。
先日、高橋さんに話を聞く機会があった。3月いっぱいで指導者を勇退すると耳にして、すぐに会いにいったという。そして『おまえはよく走ったな。夢をかなえてくれてありがとう』と、言葉をかけられたと明かしてくれた。
どんな思いで言葉をかけたのか、小出さんにも話を聞いてみたかったのに…。ビールでものみながら、東京五輪を見守っていてください。(デイリースポーツ・高橋伯弥)