紀平梨花は4回転を跳べるのか ジュニア世代が次々成功!ジャンプ高度化の波に乗れ

 18-19シーズンが幕を閉じ、新シーズンへと向かうフィギュア界。この1年で大きく躍進したのが、トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を武器にGPファイナルを制した紀平梨花(16)=関大KFSC=だろう。夢は「北京五輪で優勝」。来季はさらなる進化を求めて挑む4回転ジャンプの習得が勝負の鍵を握りそうだ。4回転の難しさと成功のポイントについて、バイオメカニクスが専門の愛知淑徳大・池上康男教授(69)と、運動生理学が専門の桐蔭横浜大・桜井智野風(とものぶ)教授(53)に聞いた。

 世界トップで戦い続けるために-。紀平が来季へ向けて目指すのは4回転ジャンプの習得だ。平昌五輪翌年だったこの18-19年は、ジュニア世代を中心に女子選手が次々と4回転を成功。今後シニアに参戦する彼女らと戦うためには、ジャンプ高難度化の波に乗らなければならないと考えている。紀平はすでにトーループ、サルコー2種類の4回転を練習中。好感触のサルコーを重点的に磨き、来季の導入を目指す。

 そもそもわれわれ一般人でも普通に跳び、着地するだけで足底部には体重の5~8倍の負荷がかかると言われる。体重60キロの人がジャンプをすれば300~480キロの負荷がかかる計算だ。さらにフィギュアでは時速約25キロで滑り、かつ右足だけで着地する高度な技術が求められる。

 3回転から4回転へと回転数を増やすには、池上教授、桜井教授とも「滞空時間を増やす、または回転スピードを上げることが必要」と指摘する。

 フィギュアのジャンプは「跳ぶ」動作と「回転する」動作の両方が必要。スケート未経験者には想像しがたい「他に類を見ない動作」(桜井教授)だ。野球に例えると、球速と制球力を同時に求めるようなもの。球速を上げればコントロールは乱れがちになり、制球を求めれば球速は落ちやすい。2つの異なる動作を求めるという意味で「滞空時間を増やすことと回転との両立は難しい」(池上教授)と言うのだ。

 池上教授が長野五輪で行った研究では、クーリック(ロシア)、郭政新(中国)が跳んだ試合での4回転と本田武史が練習で着氷した4回転の動画を解析。滞空時間は0・68~0・73秒だった。クーリックは飛距離2メートル半に対し重心が56センチ上がり、本田は3メートル以上跳ぶのに対し43センチ上がる。つまり高さ、もしくは距離を跳ぶことで滞空時間を得ていると考えられる。

 桜井教授が動画を解析した結果、紀平はトリプルアクセルの際に飛距離で3メートル20センチほど跳んでいるという。これは本田が4回転を跳ぶ際に要した飛距離に相当しており、同等の滞空時間を得られていると考えられる。よって踏み切り方こそ異なるが、4回転を跳ぶための“土台”は整っていると言えるだろう。

 男子が先に4回転を成功したのは、女子より筋力が発達しており滞空時間を得やすいから。しかしバットは短く持った方がコンパクトに振れるように、物体は小さい方が速く回しやすい。その点では「女子の方が速い回転を得やすいとも考えられる」と池上教授は言う。4回転を跳んだロシアのトルソワ、シェルバコワとも身長は150センチ。紀平も154センチと小柄だ。

 ジャンプの成否において最後に重要なのが着氷。跳び、回った上で、ジャンプの動きの方向に合わせて回転やスピード、エッジの向きをコントロールし、衝撃に耐えながら降りる技術が求められる。強く跳べば跳ぶほどコントロールは難しく、失敗の可能性も増す。紀平自身、初めて試合でトリプルアクセルを成功したのは16年9月。安定するまでに時間もかかった。4回転も同様に武器となるには時間がいるだろう。

 それでも紀平は今後必要なものとして「4回転」と断言し「どういう時代が来るか分からないので、どんどん先に行っておかないと」と話していた。理論上は成功の条件を満たしていると考えられる紀平の4回転。練習でも好感触を得始めている。あとは繊細な技術を磨き、2022年の北京五輪金メダルの夢へつなげたい。

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