「陸上・日本選手権」（２７日、博多の森陸上競技場）

　世界選手権（９～１０月・ドーハ）代表選考会を兼ねて行われ、男子１００メートルで日本記録を持つサニブラウン・ハキーム（２０）＝米フロリダ大＝は準決勝２組で大会記録に並ぶ１０秒０５をマークし、１着で２８日の決勝に進んだ。同１組は小池祐貴（２４）＝住友電工＝が１０秒０９で１着、桐生祥秀（２３）＝日本生命＝が１０秒２２で２着となって決勝進出。２組はケンブリッジ飛鳥（ナイキ）が２着、多田修平（住友電工）が３着で突破した。

　左隣に赤いユニホームがチラリと見えた。それでも小池の世界は幅１２２センチの第７レーンの中だけにある。「絶対に勝とうと思っても、自分のレーンでできることは同じ。自分のレーンに集中することだけをテーマにしてきた」。スタート直後、目に入った桐生の姿は「隣にいるな」と思っただけ。序盤に先行された前日本記録保持者に０秒１３差をつけても「どこで抜いたかわからない」とまったく覚えていなかった。

　１０秒０９は全体２位。サニブラウンと桐生の“９秒台対決”に割り込んだ伏兵は、冷静に自分を見つめる目が武器だ。主戦場は２００メートルで１００メートルはあくまで「サブ種目」と明言。スピード強化を目指して１００メートルに挑む中で、今年５月に自己ベストを０秒１３縮める１０秒０４をマークし、東京五輪参加標準記録も突破した。今年の冬季練習では主に体幹を鍛え、体重は２キロ増加。「重くなったものを反力に替えられている」と自己分析する。

　この日は「目に入ってくる風景が感覚的だった。視界に入っても何をどう思うこともない」と目の前をただ景色が通り過ぎた。北海道・立命館慶祥高時代にライバルだった桐生や、気鋭のサニブラウンがそんな景色の一つになれば、伏兵の戴冠は十分ある。