松尾雄治氏が明かす平尾誠二さんとの絆 両極端な2人の「ミスターラグビー」

 日本のラグビーを語る際に、欠かせない人物がいた。2019年W杯日本大会を心待ちにしながら、2016年10月20日に53歳の若さで急逝した平尾誠二さんだ。平尾さんと深い“絆”があった人物に話を聞いた。ライバルだった新日鉄釜石OBの松尾雄治氏(65)の話を通して、今なお生き続ける“ミスターラグビー”の思いを紡ぐ。

 澄み切った青空の下で、ぽつりと言った。

 「平尾がいたら、また楽しかっただろうな」

 昨年8月、岩手県の釜石鵜住居(うのすまい)復興スタジアムのこけら落としとして行われた、新日鉄釜石と神戸製鋼のOB戦。試合後の松尾さんの言葉だった-。

 「平尾と俺、神戸製鋼と新日鉄釜石って、似ているでしょう?チームカラーが赤だったり、鉄鋼業だったり、7連覇だったり、震災があったりとか」

 ともに称号は“ミスターラグビー”。平尾さんの台頭以降、松尾さんには“元祖”がつくことも。「お互いのプレーで惹(ひ)かれ合うところもあるし、生活態度で引かれ合うところもあった」。認め合う存在だった。

 引退後の2人の歩みは正反対だった。松尾さんはラグビー界の中心から少し距離を置く。平尾さんはラグビー界の中枢にいた。それでも、2人の仲は続いた。松尾さんは平尾さんと将来を語りあったことを明かす。

 「ラグビーが発展することは、俺の願いでもあるし、おまえの願いでもあるだろう?」

 「俺はいつまでたっても『ラグビー協会、何やっているんだ』という態度でいく。おまえは神戸製鋼に残って、将来ラグビー協会の会長になるんだよ」

 W杯がある。その先がある。つなげていく絆がある。ラグビー界のトップに平尾さんが、一ファン目線から松尾さんが。両極端な立場で一体となって盛り上げる絵図。「例えば飲み屋のオヤジとか、いろんなやつが意見を出してね。それを受けるのが平尾、協会。そうやって、発展につながるでしょう?」と遠くを見つめた。

 描いた夢は志半ばで途切れた。「本当に大事な、ラグビー界にも大事な人間。友達としても後輩としても大事な人間だった」-

 W杯は釜石で一緒に観戦するはずだった。目を閉じれば、木の香りのする観客席で隣に座る姿が浮かぶ。

 「『今のプレー、どうだよ』。『あれは違うよ』。そんなことを言いながらね。そのうち自分がすごい選手になっちゃうんですよ。頭の中でね。やったことのないようなプレーも『俺たちの時代はこうやったんだ、ああやったんだ』ってね」

 平尾さんがいたら、また楽しかったはずだ。

関連ニュース

編集者のオススメ記事

スポーツ最新ニュース

もっとみる

    主要ニュース

    ランキング(スポーツ)

    話題の写真ランキング

    写真

    リアルタイムランキング

    注目トピックス