脇田紗良 16歳の超新星 父はレジェンド「金メダルって言える実力になっていたい」
東京五輪まで、24日でいよいよあと1年。2016年8月に追加種目として初採用されたサーフィン、スポーツクライミング、空手、スケートボードの4競技の選手たちは初の夢舞台に胸を弾ませている。デイリースポーツでは1年後に迫った祭典を目指す女子アスリートにインタビューを敢行。サーフィンの脇田紗良(16)は名サーファーだった父を持つ伸び盛りの美女サーファー。ヒロインの思いに迫った。
東京五輪会場となる千葉・釣ケ崎海岸近くのカフェ。潮の匂いが混じったホームの風を頬に受け、脇田の声が弾む。「サーフィンって、波が毎回違うから飽きない。1回も同じ波というのがなくて、毎回いろんなことに挑戦できる。サーファーにしか分からない、波に乗ってみないと分からない感覚があって。それがめちゃくちゃ気持ちいい」。日本女子サーフィン界の新星は、屈託のない笑みを浮かべた。
今季はトップサーファー18人が争う世界最高峰のチャンピオンシップツアー(CT)の下部大会に当たる予選シリーズ(QS)で現在、日本人トップの6位。3月の大会では格上のCT選手を破って準優勝するなど急成長を遂げている。9月に宮崎市で開催されるワールドゲームズ(世界選手権に相当)の日本代表にも初選出。来季のCT参戦、そして五輪代表を射程圏に捉えている。
サーフィン競技は1組2~5人で乗った波をジャッジが採点し、得点の高い2本の合計点数で競う。一番の醍醐味(だいごみ)は「駆け引き」にあるという。「サーフィンは心理戦ですし、運もあります。『あそこがいい波なんだな』とか『あの波いいな』とか思ってゲームプランを考えるんですけど、入ってみたら全然波が変わることもある」。優先的に波に乗ることができる「プライオリティー制」をどう活用するかなど、複雑な展開が奥深い。
世界中のビーチを転戦する16歳からは、少し大人びた印象を受ける。「他の競技に比べると、『チャラい』とか『遊び』とかのイメージが強くて。そういうのをなくして、ジュニアの試合でも朝のニュースとかに流れるぐらい有名になっていければなと」。自分のことだけではなく、競技全体の普及にも思いを巡らせる。
父親はサーフィン界のレジェンドだ。聖地であるハワイ・オアフ島のノースショアで巨大な波に同じポイントから何度も挑み続けた、脇田貴之氏。いつしかその場所は畏敬を込めて、「ワキタ・ピーク」と名付けられた。
「尊敬できるサーファーです。海に入ってると『すごいな』って。でも陸に上がってくると一気にお父さんになっちゃう。結構スパルタで10個悪いところを言ったら1個褒めてくれる感じ。24時間サーフィンのことを考えてないと勝てないってずっと言われてます」
サーフィン一家に生まれ、4歳の時に父親にノースショアで教えてもらったのが始まりだ。だが、父親が有名人だからこその苦悩もある。
「優勝したとしても必ずお父さんの名前が最初に入ってくる。それが嫌だなって。娘って言われるのはうれしいんですけど、自分は自分で認めてもらいたい。多分一生ついてくると思います」
サーフィンが東京五輪の追加種目に決定した時は、自身の中で大きく心が動くことはなかったという。
「ハワイで育ってて、サーフィンってハワイでは一番有名なスポーツだったので、『あ、また大会ができたんだな』という感じでした」
だが、気持ちに変化が生まれるまでそう時間はかからなかった。慣れ親しんだ釣ケ崎海岸が舞台。プロサーファーとして着実に膨らむ自信とともに、手が届くものだと思えてきた。
「五輪に出られるとしたら、金メダルって言える実力になっていたい。実力がもっと上じゃないと勝てないと思う。実力や試合のやり方でもっと上に行かなきゃいけない」
1年後の自分に向けたメッセージを色紙に書いた。「Be humble & Be someone that inspires others!」。得意の英語でつづった「謙虚で、他の人に影響を与える人になる」という意味の言葉には、少女の真っすぐな思いが詰まっている。