【記者の視点】9秒台トリオ 世界選手権初の男子100決勝への課題はスタート
「陸上・世界選手権」(27日開幕、ドーハ)
陸上の世界選手権が27日、カタールの首都ドーハで開幕する。来年の東京五輪の前哨戦と位置付けられる中、注目は初日から行われる男子100メートル。日本からは日本記録保持者のサニブラウン・ハキーム(20)=米フロリダ大、前日本記録保持者の桐生祥秀(23)=日本生命、小池祐貴(24)=住友電工=の3人が出場する。“9秒台トリオ”には、世界選手権では日本初、五輪を含めた世界大会では1932年ロサンゼルス五輪の“暁の超特急”吉岡隆徳(6位入賞)以来87年ぶりとなるファイナリストの期待が懸かる。
◇ ◇
世界中の人々が興奮と羨望(せんぼう)のまなざしを向ける“最速決戦”。わずか8人しか進めない夢舞台は、これまで日本人にとって遠い世界でしかなかった。ただ、今年は違う。2年前のロンドン大会以降、3人の9秒台選手が出現。その3人が確かな可能性をもって、ファイナリストを狙う。
筆頭候補となるのは、日本記録保持者のサニブラウンだ。6月に叩き出した9秒97は、エントリー選手の今季ベストとして11番目。9秒8台を持っているコールマン、オドゥドゥル、前回大会覇者のガトリンを除けば、大差はない。25日に行われた会見では「優勝する勢いで」と、頂点までも視野に入れた。
2年前のロンドン大会でボルトが引退。世界記録9秒58を持つ“人類最速の男”が舞台から去り、頂との距離感はかつてなく近い。「正直、決勝のラインに立てば、何が起こるか分からない」。まだ“伸びしろ”タップリの20歳の潜在能力を考えれば、東京五輪代表内定となるメダルに届く可能性すら感じさせる。課題はスタート。2年前の準決勝ではスタート直後にバランスを崩し「やらかしました」と唇をかんだ。6月の日本選手権でも予選、準決、決勝とも後手を踏んだ。世界レベルではそれが致命傷。ここをクリアできれば、決勝進出以上の成果も期待できる。
小池は日本歴代2位タイ9秒98をマークした7月DLロンドン大会で、強豪相手に4位に食い込んだ。リオ五輪銅のデグラッセには先着。同レース同様、スタートで先行し粘りたい。桐生は現状、爆発力こそ影を潜めているが、今季は安定感がグッと増した。準決勝でもう1段ギアを上げられるかが鍵になる。
決勝進出ラインとなるのは、10秒00前後。それぞれが自らの力を信じ、駆け抜けた時、歴史の扉は開かれる。(デイリースポーツ・五輪担当・大上謙吾)