鈴木雄介が金「すべての人に感謝」 史上最過酷レースで競歩日本史上初の快挙
「陸上・世界選手権」(28日、ドーハ)
男子50キロ競歩は日本記録保持者の鈴木雄介(31)=富士通=が4時間4分20秒で金メダルを獲得し、20年東京五輪代表に内定した。日本競歩界にとって五輪を含めた世界大会での金メダルは史上初。世界陸上での日本勢の金メダル獲得は、11年韓国・大邱大会の男子ハンマー投げ・室伏広治以来8年ぶり史上5人目の快挙となった。男子100メートルは日本勢3選手が準決勝敗退。男子の走り幅跳び決勝は20歳の橋岡優輝(20)=日大=が7メートル97で日本勢初入賞となる8位に入った。
ただ、己だけを信じて歩ききった。ただの50キロではない。もがき、苦しんできた4年の道のりをかみしめ、鈴木は栄光のゴールテープを切った。「自分が日本の競歩のパイオニアだと勝手に思ってるので、日本競歩界初の金メダルは本当にうれしい」。すがすがしい表情で快挙に浸った。
気温31度、湿度74%。中止もささやかれた過酷な条件に、腹は決まっていた。「自分が歩き切れるペースでいく」。スタートから飛び出し、孤独な一人旅となった。高温多湿な環境が、徐々に体力と気力をむしばんでいく。残り16キロで足が重くなり始め、徐々にペースダウン。脱水症状を感じ始めた残り10キロからは、疲労から歩きながら給水することが困難に。それでも頭は冷静だった。「立ち止まってでも、しっかり給水しよう」。最終的に2位とは39秒差。前半の貯金を駆使し、史上最も過酷と言われた消耗戦をしのぎきった。
リオ五輪前の15年に20キロで世界記録を樹立。世界一美しいとされるフォームとともに、一躍金メダル候補として注目されるようになった。しかし「自分で自分を追い込んでいった」。股関節痛がありながら、強行出場した同年世界選手権で患部を悪化させ途中棄権。2年9カ月もの間、表舞台から姿を消した。
リハビリもうまく進まず、「自暴自棄になった」。引退もよぎった。それでも自分を信じられなくなった鈴木を、周囲も会社も信じてくれた。だから「ここに戻してくれたすべての人に感謝したい」と、涙ぐんで感謝した。持論がある。「けがをしてよかったことなんてない。無駄だった」。けがをしていない自分と比較できない以上、「よかった」なんて言えない。ただ、この4年で間違いなく手にしたものはある。
「もう完全復活でいいかな」と笑う31歳の夢は「競歩界のレジェンドになること」。遠回りして刻んだ、果てしなき夢の道への大きな大きな一歩だった。