広島出身の空手世界王者・島本雄二「空手をもっとメジャーにしたい」来春、東京で道場開設
広島県呉市出身の空手家・島本雄二(29)が4年に1度行われる新極真会主催「第12回全世界空手道選手権大会」(11月9・10日、東京・武蔵野の森総合スポーツプラザ)で2連覇の偉業を達成した。「日本勢が王座を死守しなければいけないというプレッシャーを力に代えて稽古を積んできた。うれしいというよりホッとした気持ちが強い」。フルコンタクト、無差別級で争われ、まさに世界最強を決める戦い。島本は2日間で7試合を勝ち抜き頂点に立った。決勝は欧州選手権3連覇のマシエ・マズール(ポーランド)を3-0の判定で破った。
これまで全日本選手権を4度制するなど日本のエースとして君臨する島本は、父と兄の後を追って6歳から空手を始めた。高校2年の時に全日本ジュニアで初優勝。さらに広経大3年の時に全日本ウエイト制の重量級を制して初の日本一に輝き、以降は名実ともに日本のエースとして空手界を引っ張ってきた。
現在は新極真会広島支部の大濱道場(広島市南区)に所属。同道場は県内に22道場を持ち、島本は師範代として4つの道場を回り、大人から子供まで約100人の弟子を指導している。「子供たちには空手を通して、苦しいことや嫌なことから逃げずに最後までやりきる力を身につけてほしい。我慢強さを学び、礼儀・礼節がきちんとできるようになれば、自然と体も強くなると教えています」
午前は自身のトレーニングに打ち込む。近年は空手界にも最先端のトレーニングが入ってきているが、島本はそういうものに見向きもしない。古来から受け継がれてきた伝統的な稽古である型稽古や移動稽古、ミット打ちなどに励み、日替わりでジャンピングスクワット1000回、拳立て1000回(コブシでの腕立て)、腹筋1000回をこなす。
「平凡なことを当たり前のように毎日続ける。決して簡単なことではありませんが、これを10年以上続けてきたからこそ、今の自分があると思っています」。フルコンタクトだけにケガは日常茶飯事だが、「コブシや足の指の骨折はケガに入りません」。鋼のように鍛え抜かれた肉体があればこそのセリフだ。
島本には2つの夢がある。一つは世界王者になること、もう一つは自らの道場を持つことだ。後者の夢もかなえるため、来春、広島を離れて、東京で自身の道場を開くことを決めた。「ゼロからの立ち上げなので決して楽ではないが、その厳しさも今後、自分が成長していくための糧にしていきたい」
4年後の世界選手権3連覇という大偉業が待ち受ける。そこを目指すかはまだ決めていないというが、選手とは別に一人の空手家として大きな使命を胸に秘める。「空手をもっとメジャーなスポーツにしていきたい。そのためにも世界王者である自分がいろんなところで空手をアピールしていくことが大事。その拠点となるのが東京の道場です。フルコンタクト空手の素晴らしさを多くの人に発信していきたい」。空手に人生を捧げてきた島本の新たなチャレンジが始まる。
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島本にとって家族は何よりも大切な存在だ。長男の金太郎くん(6)、長女の栞那ちゃん(3)、生後5カ月の華那ちゃんの3児の父で、金太郎くんも3歳から空手を習っているという。高校時代の同級生である妻の麻衣さん(30)は一番の良き理解者だ。
大学卒業後、島本は呉市内の酒造会社に勤務した。しかし、5年前、世界王者の夢をかなえるため、より空手に集中できる環境を求めて退社を決意。その時も妻は何も言わずに「頑張って」と背中を押してくれた。
「普段は空手一色の生活ですが、日曜だけは空手のことは一切忘れて家族と公園に行ったりしてのんびり過ごします。私にとって大切な時間です」。東京で道場を開く時には家族で転居する。
そして、島本の空手人生において欠かせない存在が、同じく日本代表でもある兄の一二三(33)だ。2012年の全日本選手権決勝では兄弟対決が実現。弟が制し、悲願の初優勝を果たした。
「空手家として尊敬する兄が身近にいたことで自分も世界王者になれた。絶対に負けたくないライバルでもあり、常に切磋琢磨できたからこそ今があると思っています」。来春からは広島と東京で離れることになるが、今後も兄弟で力を合わせて空手界を盛り上げていく。
島本雄二(しまもと・ゆうじ)1990年1月23日生まれ。広島県呉市出身。広経大卒。177センチ、92キロ。新極真会広島支部所属。主なタイトルは全世界選手権2連覇。全世界ウエイト制選手権重量級優勝。全日本選手権優勝4回など。趣味はスポーツ観戦。