豊ノ島、幕下で現役続行も黒星発進 長女の「私がお金を貸してあげるから」に奮起
「大相撲春場所・初日」(8日、エディオンアリーナ大阪)
初場所で4勝11敗と負け越し、9場所ぶり関取から陥落した東幕下2枚目の豊ノ島(36)=時津風=が琴太豪(佐渡ケ嶽)に敗れ、黒星発進となった。
立ち合い、右から張って攻めたが、圧力を受け後退。土俵際、回り込み、突き落としを狙ったが不発。粘り切れず土俵を割った。
「冷静にいけば、突き落とし食ったかな。自分の内容でできなかった」と悔やんだ。
決死の現役続行だった。16年7月の名古屋場所前に左アキレス腱断裂。2年の幕下生活を乗り越え18年11月の九州場所で十両復帰した。6連敗で終わった先場所後は「自分の中ではやり切った」と引き際を示唆していた。
だが熟慮し多くの人の助言も受け、再び土俵に戻る決断をした。「悔いも残ると言えば残っている。(先場所)千秋楽を終えてやりきったという、あの時はそういう気持ちだった。幕下に落ちて、ここまでやってまたやるのはどうなんだろうと。いろんな人に『辞めようと思う』というようなことを言うと『やらないかんやろ』、『このままでいいの?』という声が多くて『お疲れ様』というのが少なかった」。本人が思う以上に周りは現役を望む声ばかりだった。
特に家族は沙帆夫人、7歳の長女・希歩ちゃんが現役続行を熱望したのが気持ちを動かした。
18年の九州場所で十両復帰するまで丸2年、給料の出ない幕下生活を送り、豊ノ島は金銭面でこれ以上、家族に負担をかけられない思いがあった。
「2年も幕下にいたら夫婦で経済的な話も家でするから」。無給になることを長女も理解していた。その上で長女から「幕下に下がるとお金がなくなる。私がお金を貸してあげるから頑張ってよ、一生懸命やって。普通のお父さんになるのは嫌」とハッパをかけられた。
「娘にここまで言われて、悔いのない状態で辞めた方がいい。頑張ろうと思った。(春場所で)最後になる覚悟を持って、最後にならないように。夏場所で関取に戻って、娘に金を借りないように」と続行に気持ちは一気に傾いた。
家族を呼び、最後の勇姿を見てもらいたい考えもあった。しかし、今場所はまさかの無観客。「勝負の緊張感ばかりが増して、空気感の緊張感は薄れたかな。そこはみんな同じだから。こういう経験はよっぽどじゃないとできない。先場所で辞めていたらできなかった。変な緊張感に飲まれず、もっと楽しんでやりたい」。1場所で関取復帰へ、ここから逆襲する。