一山麻緒が国内最高V!涙の逆転五輪「夢見たい」 難条件も驚異のペースで野口超え
「名古屋ウィメンズマラソン」(8日、ナゴヤドーム発着)
東京五輪の女子日本代表残り1枠をかけた最終選考会で、一山麻緒(22)=ワコール=が日本歴代4位の2時間20分29秒で初優勝し、1月の大阪国際で松田瑞生(24)=ダイハツ=がマークした2時間21分47秒を切って東京五輪の代表に決まった。03年1月の大阪国際で野口みずきが樹立した2時間21分18秒の日本人国内最高記録を17年ぶりに更新。すでに決定している前田穂南(23)=天満屋、鈴木亜由子(28)=日本郵政グループ=とともに五輪代表が出そろった。
雨に打たれ、冷え切った体で飛び込んだ。待ち構えた永山忠幸監督(60)の懐に埋めた一山のほおから伝う一筋、二筋の涙。158センチ、43キロの小さな体を震わせ、つかんだ東京行きの切符。日本女子マラソン界に22歳のニューヒロインが誕生した。
「今日みたいな日が来るのが夢だったので夢みたい。こういう日だからこそ、五輪を決めたらかっこいいな、と思って走った」
降りしきる雨に、スタート時の気温は9・1度。2時間21分47秒の突破へ、厳しい条件が立ちはだかった。記録だけを狙えばいいラストチャンス。1キロ3分20秒のペースメーカーの背後にピタリとつけ、精密機械のように3分20秒前後のラップを刻み続けた。
東京への合図は29キロ過ぎに訪れた。30キロの給水をいい位置で取るため、ギアを上げた。そのまま後続を置き去りにし、1キロ3分10秒へとペースアップ。落ちるはずの後半が前半よりも23秒速い爆走で、2時間20分台の領域へ足を踏み入れた。
「30キロまではジョグというと言い過ぎだけど、今日はあまり苦しい時間はなくて、きつい顔をしていなかったのでは。早くゴールしたい気持ちだった」
今大会に向けた米アルバカーキでの高地合宿。5キロを8本走る自称『鬼メニュー』を消化し続けた。周囲が評する性格は『素直』。勝負どころの30キロ以降をにらみ、同僚の福士加代子の1・2倍という強度のメニューも黙々とこなした。
「5回目の五輪、マラソンは君で行くよ」。4年前にワコールに入社した際、永山監督は自身の東京五輪への思いを一山に伝えた。出水中央高2年のとき『東京五輪はマラソンで出たい』と覚悟を決めていた話をスカウトから聞き、長く苦しい戦いが始まった。
MGCで6位に終わるなど、一度も頂点には立てなかった。厳しい練習を積んでも結果が出ず、ぶつかりそうになったことも。ピアスやネイルなどのおしゃれに興味を持つ22歳に歩み寄ることで、絆はより深まった。
「世界と戦うにはまだまだ記録が劣っている。でも、日本代表としてかっこいい走りがしたい」。5カ月後の8月8日。北の大地にもシンデレラストーリーを刻み込む。