小林祐梨子氏 マラソン度胸満点3人娘 速いペースでも臆さず行けば怖い存在に
東京五輪男女マラソン代表の選考会が終わり、男子は中村匠吾(27)=富士通、服部勇馬(26)=トヨタ自動車、大迫傑(28)=ナイキ。女子は前田穂南(23)=天満屋、鈴木亜由子(28)=日本郵政グループ、一山麻緒(22)=ワコール=の日本代表6人が出そろった。男子は8月9日、女子は同8日(ともに午前7時スタート)に札幌大通公園発着コースで行われる。女子の期待やポイントなどを小林祐梨子氏に聞いた。
◇ ◇
女子最後の1枠を決めた一山選手には驚きました。1月の都道府県駅伝で10キロを全力で走った記録より、今回のラスト10キロが速かったのです。五輪への設定タイムより1秒でも速ければいいのだから、私なら30キロから少しずつ上げていきます。35キロや40キロからガクッと失速するのが怖いのです。でも、彼女の次元は違いました。
設定タイムを持っていた大阪国際女子マラソン優勝の松田選手が、結果を見て最初に口にしたのは「完敗や」。一山選手は自分よりさらに高みを目指して練習してきた。誰よりそれを感じたのだと思います。
大阪で優勝した松田選手は、当時の設定タイムが自身の記録であったため、MGCから大阪までは今まで以上の練習をすることに専心しました。しかし、昨年がマラソンデビューの一山選手は、指針になる成功体験がありません。それでもあれだけの攻めの走りができたのは、とんでもない量と質の練習をこなしてきたから。女子は評価が分かれる厚底シューズを路面が硬い名古屋で履きこなせたのも、鍛えあげられた筋力があったからだと思います。
MGCからファイナルチャレンジまでを見て、05年に野口みずきさんが日本記録を出してから止まっていた女子マラソンの時計が動きだした気がしました。今の若い選手は、高橋尚子さんや野口さんの現役時代を見たことがないため、記録に現実味がなく、それを目指すのは「私には無理」と思いがちです。06年から残る私の1500メートル日本記録に、800メートルが私より速い選手が「無理です」と言うこともあります。でも、そう思っている時点で無理なのです。
代表3人のレース展開を見ると、これまでの日本選手のように30キロまで海外勢についていくことに必死になったり、スローペースを引っ張って外国人のペースメーカーになってしまったりではなく、勝負どころで一気にいく度胸があります。決して守りに入らない。自分でレースをコントロールしています。
その根底には、人には見せない努力があります。MGCで最も落ち着いていた前田選手は昨年4月から月間1000キロという気の遠くなるような量をこなしました。鈴木選手は今右太ももに軽い肉離れを発症していますが、話を聞くと明るく前向きです。使えていなかった筋肉があり、このままでは五輪で勝てないとあえて高度な練習に踏み込んだ結果と、負傷もプラスに捉えているのです。
彼女たちはそろって強い覚悟を持ち、しかもいつも楽しそう。五輪では少々速いペースでも臆さず行き、海外勢には怖い存在になるでしょう。東京だけでなく次の五輪へも夢が広がるメンバーです。(08年北京五輪5000メートル代表。1500メートル日本記録保持者・小林祐梨子氏)