五輪史上初の延期、ついに日本も検討へ IOCと協議し4週間で結論
新型コロナウイルス感染拡大に伴い、国際オリンピック委員会(IOC)が東京五輪・パラリンピックについて延期を選択肢として検討する新方針を発表したことを受けて、東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長(82)と、武藤敏郎事務総長(76)が23日、都内で報道陣の取材に応じ、開催時期についてIOCと協議していくことで合意したことを明かした。開催国の日本側はこれまで一貫して今夏の通常開催を主張してきたが、五輪史上初の延期の公算が大きくなった。
会見場に姿を見せた“組織委のドン”の足どりは重く、肩を落としているようだった。22日夜になり、IOCのバッハ会長から急きょテレビ会議を要請され、延期を含めた検討に入る方針を伝えられた。森会長は「われわれも検討しなければならないと考えているところに、そういう要望がきた。考えることは一緒」と話したが、これまで難色を示し続けてきた延期への舵(かじ)を、ついに切らざるを得なくなった。
「日本は落ち着いた状況ではあるが、米国、欧州は異常な事態になっている。いろんなところからいろんな声が上がっている。この状況で、最初の通りこのままやるというほど、われわれは愚かではない」
発言力の強い欧米各国の国内オリンピック委員会や、世界陸連など競技団体、そしてアスリートたちが次々と延期を求めて声を上げ、もはや流れは止められなくなった。努めて穏やかな表情を浮かべながらも、口調は時折怒気をはらんだ。国内外から「アスリートのことを考えていない」と選手軽視の声が上がっていることに自ら触れると、「アスリートのこと考えているから、われわれは苦しんでいる。そういう声がアスリートから出るのは非常に遺憾。アスリートなくして、五輪はない。百も承知だ」と語気を強めて反論した。
今後はIOCと協議をしながら、年内、1年、2年と延期のシミュレーションを重ね、4週間で結論を出す。「まず競技場が空いているかどうか。そこからやらないといけない。次に経費の問題がある」。加えてすでに販売済みのチケット、5万人を超えるボランティア、3500人規模になった組織委の運用など、運営団体の長として膨大な仕事を抱えることになる。「(4週間という)大変な時間で決めないといけない。だからといって長々やるわけにはいかない」と、受け止めた。
7月14日に83歳を迎える元首相。15年に肺がんを患い、闘病しながら、組織委の仕事を続けてきた。海外メディアから「1、2年延期でも仕事を続けるのか?」と問われると、「極めて失礼な質問」と断じた後、ポツリとつぶやいた。「命があるか分からないから、なんとも言えない」。命を削りながら整えてきた舞台は、無情にも蜃気楼(しんきろう)のごとく、遠くかすみ始めた。