新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化していることに伴い、東京五輪・パラリンピックは３月２４日に延期が決定した。３０日には五輪が２１年７月２３日に開幕、８月８日閉幕、パラリンピックは同８月２４日開幕、９月５日閉幕という、当初の予定よりそれぞれ１日前倒しとなる開催日程も決まり、今後は今夏と同じ施設の使用を目指していく。１年延期に伴い、国際オリンピック委員会（ＩＯＣ）、東京五輪・パラリンピック組織委員会の現状や取り組み、抱える問題点などを検証した。

　Ｑ．延期はなぜ１年だったのか。

　Ａ．ＩＯＣや組織委の森喜朗会長は２１年春開催や、２年延期のプランがあったことを明かしている。ただ、春開催は新型コロナウイルスの一定の終息を見込むためには時間があった方がいいという判断、最大の放映権料を払う米国において人気競技のシーズンと重なることで反発が予想されることなどから見送られた。２年延期案はウイルスの完全な終息が見込めるため、政府や組織委内で推す声もあったが、２１年９月までが自民党総裁の任期となる安倍晋三首相が１年延期で押し切った。

　Ｑ．延期に伴う追加費用はどれぐらいで、どのようなものが関わってくるのか。

　Ａ．概算で３０００億円規模と見込まれており、競技会場の借り換えや、４月から３８０３人の職員体制となった組織委の人件費や、事務所の賃料なども関わってくる。スポンサー収入の確保も重要で、国内協賛企業６６社の理解も得なくてはならない。今後、追加費用についてはＩＯＣ、組織委、国、東京都で協議。さらなるコスト削減に取り組むが、ＩＯＣのジョン・コーツ調整委員長は延期にかかるＩＯＣの具体的な負担については明言していない。

　Ｑ．聖火は現在どこに置かれ、２１年の聖火リレーはどうなるのか。

　Ａ．組織委の管理の下、保管されている。厳重に管理する必要があるため、場所については明らかにされていない。当初は４月２日から３０日まで福島県のサッカー施設「Ｊヴィレッジ」で展示した後、５月以降は東京に移す予定だったが、８日に展示が中止となった。聖火リレーについては、決定していたランナーが優先的に走る形で調整を進める。

　Ｑ．来夏の大会でも、当初の予定と同じ会場を使えるのか。

　Ａ．今夏に使用予定だった４３会場の利用を目指し、施設所有者に要望している。もっとも、重量挙げ会場の東京国際フォーラム、報道陣が拠点を置く東京ビッグサイトは来年の先約が入っている。森会長は「要請に際しては丁寧な対応が必要と考えている。相手に真摯（しんし）に向き合い、理解と協力を求めていきたい」と話す。仮に確保できたとしても、合意されていた契約を変更するなら補償問題が浮上する可能性もある。

　Ｑ．購入済みのチケットの扱いはどうなるのか。

　Ａ．原則そのまま利用でき、来場が困難な場合等、希望者には払い戻し、会場の変更等でそのまま利用できない場合には払い戻す予定。６月以降に予定していた観戦チケットの発送はいったん取りやめる。４月下旬から予定していた都内の東京２０２０チケットセンター有楽町での窓口販売を含めた観戦チケットの春期販売はひとまず見合わせる。

　Ｑ．すでに決まっている大会ボランティアはどうなるのか。

　Ａ．会場の案内や補助などを手がける約８万人の大会ボランティアは、来夏も同様の活動、役割を担う方向。組織委は３月２日以降、役割や会場についてのお知らせを送付し、ほぼ全員から承諾を得た。会場が確定次第、対象者に意思確認を行う。

　Ｑ．組織委として新型コロナウイルス対策への取り組みは。

　Ａ．職員はテレワークを原則としており、４月９日に東京・晴海の事務所に出勤した職員は約１割。契約に関する支払い業務などはリモートでは対応できないため、必要最小限の出勤に絞っている。２０年１月に感染症に関する専門の医師を職員として招へいしており、万全の対策を取っている。

　Ｑ．１年後までコロナウイルスが終息しなかった場合は再延期、中止はあるか。

　Ａ．英公共放送のＢＢＣは「ワクチンが開発されない限り、開催は非現実的」と報じている。世界中からアスリートだけでなく、関係者、ファンが集まる大会だけに、ワクチンが開発され、世界的に終息していることが開催の大前提となる。ワクチン開発まで１～２年かかるとみられており、状況は楽観視できない。競技団体関係者の中では「再延期は厳しい」との見方が強い。すでに２１年に開催予定だった世界水泳、世界陸上といったイベントが２２年への延期を決めており、日程の再調整のハードルは高い。また、さらなる莫大（ばくだい）な費用が必要となる中で、国内世論を納得させられるか。翌２３年は２４年パリ五輪の前年となるだけに、中止という判断も現実味を帯びてくる。