京産大ラグビー部・伊藤監督の抱く思い「日々生きていくことで希望の光が見えてくる」
ラグビーの関西学生リーグで4回の優勝を誇る京産大が、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う大学の方針を受け、他の部とともに課外活動を禁止している。大学は3月29日に一般学生の感染を発表後、同30日には4月12日まで各部の課外活動禁止を発表し、4月6日には5月10日まで延長。さらに、5月1日には9月20日までの再延長を決めた。15年W杯イングランド大会日本代表で、今季から指揮を執る伊藤鐘史監督に(39)にラグビー部の現状や、抱いている思いを電話で聞いた。
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-ラグビー部の現状は。
「チームは3月30日に解散になり、オンラインでのトレーニングを3週間後の4月20日から始めました。最初の3週間は何もしませんでした。5月の大型連休明けの11日から再開できるかもという話だったので、いったん自主的なことを考えてもらう期間に充てました。学生たちは自宅に帰っています」
-課外活動の禁止期間が9月20日まで再延長となった。今後の状況により、期間の延長や短縮もあるが。
「だいぶ先だな、という思いになりました。選手とミーティングをしても、特に4年生はこの先どうなるのかと不安な気持ちになったのは事実ですね。春学期のくくりが9月20日までなので、それに合わせた期間ということです」
-オンラインでのトレーニングとは。
「(オンライン会議システムの)Zoomを使い、最初は学年ごと、次にポジションごとに始めました。そして学年をミックスする形で進めていきました。自宅でできる自主トレーニングです。腕立て伏せ、スクワット、腹筋などをミックスさせた内容です。今できているのはメンバーとつながっていることと、汗をかけるというレベルです」
-部員から不安な声を聞くことはあるか。
「4年生とはちょこちょこ話していますが『このまま公式戦もどうなってしまうのか?』とかですね。3年間積み重ねてきたことを、最終学年ですべて発揮したい強い思いがあったわけですから。本当に不安な様子はありますね」
京産大は3月29日に一般学生の新型コロナウイルス感染を発表して以降、罹患(りかん)が判明するごとにホームページで発生状況を8回も発表。クラスター(感染者集団)が発生し、4月には大学に脅迫の電話やメールが相次いだ。
-心理的、精神的なつらさはなかったか。
「起こったことはしょうがないし、大学としても正義感があってした発表なので、何も間違っていなかったと思うんです。では次に何ができるのかということだけで…」
-選手への影響は心配にならなかったか。
「1年生も(3月28日にグラウンドでの全体練習に)参加して、全員でそろって進んでいこう、というときだったので。学生たちはがっくりきた部分はあるのではないかと思います。これからどんなラグビーを展開していくのだろう、というワクワク感に満ちていましたから。これも我慢です」
-自分たちができることに集中していく。
「それしかできないです。できることも限られるけど、広げられるような思考を持たないといけないかもしれない。何か成長するものを考えるとか。創造的なアイデアが挙がってくればいいですね」
神戸市長田区出身の伊藤監督は、1995年1月17日の阪神・淡路大震災で自宅が半壊。当時は中学2年生だった。
-阪神・淡路大震災の経験が重なっている部分はあるか。
「被災した当初、希望を持てなかった意味では、今の4年生の心理と重なるかもしれません。光が見えない状態、コロナについてもいつから活動できます、とは見えない状況です。震災当時、中学2年生だった私にとっても、元の生活に戻れるのか、とは思えなかったですから。中学2年生なりにできたことは、日々生きていくことからでした」
-生きていくこと…。
「生きていくことで日本全国からサポートがあり、世界も含めていろいろな手助けがあって、自分の手で水くみや、家の片付けを少しずつ重ねる上で、希望の光みたいなものが少しずつ見えてきました。そう考えると、その人、その人で活動の範囲は変わってくるでしょうけど、何かできることはあるなと。最低でも生きていくことは間違いなくできるはずです」
-今の状況で、大事にしなくてはいけないことは何か。
「世の中のキャッチフレーズを利用すると、ステイホーム、ステイポジティブです。家に居ることはもちろんですが、ポジティブなマインドも持ち続けたい。大変な状況を世界中の人たちが経験していますが、そのような中で前向きな姿勢を持つことで何か新しいことを考え、生み出す力になるはずですから」