大会再開で見えた陸上界のコロナ対策
新型コロナウイルスの影響による休止期間を経て、陸上界もスタートを切った。トラックで競うホクレン中長距離チャレンジの第1戦が4日に北海道士別市で開催された。日本陸連は4月初めに6月末まで主要な競技会の休止を決めたため、全国規模の主要大会としては再開初戦だった。
大会は徹底した新型コロナ対策が講じられた。無観客で実施され、選手や報道陣は大会前に検温や体調についての報告が義務づけられた。昨年30人を超えることもあった1レースの人数は25人まで。密集を防ぐために招集所は設けず、選手はスタート地点へ直接向かった。ユニホームには自らの手でナンバーカードを貼り付けた。
象徴的な場面はゴール直後。場内アナウンスでは選手に「フィニッシュ付近にとどまらず、速やかに移動をお願いします。できるだけ早く、手洗い、洗顔をお願いします」と繰り返し言葉がかけられた。「同じチームの選手を応援したいと思いますが、自分のレースが終わったら、観戦せずに宿舎へお戻りください」と付け加えられる一幕もあった。
当初は厳しい注文だな、と思って聞いていた。特に中長距離種目では、精根が尽き果ててゴール直後に倒れ込んだり、膝などに両手をあて、その場でしばらく息を整える場面をしばしば見かける。もっとも、各選手は促されるように距離を取り、立ち止まることなく移動していた。新型コロナ対策への強い意識が、これまで見受けられた一連の行動様式をも変えていた。
実戦の休止期間が長く、コロナ対策が講じられたこともあり、開催前まで記録については疑問視していた。もっとも、東京五輪マラソン女子代表の前田穂南(天満屋)は5000メートルで2年ぶりに自己ベストをマーク。同1500メートルでは田中希実(豊田自動織機TC)が日本歴代2位の記録をたたき出すなど、好記録が連発した。
5カ月ぶりの実戦だった前田は、レースから遠ざかっていた期間についても「そこまでモチベーションが下がることはなかった」と言ってのけた。田中は「世界大会で走るのと同じくらいの集中力を、一つ一つの大会で出していかないといけないと思った」と言い切った。コロナ禍でも失わない前向きな気持ちが記録につながったと思っている。強い意志を耳にし、ほかの選手も続いていくと確信した。
日本陸連の河野匡・長距離マラソンディレクターは対策について「100点がないので、不安な部分の方が大きい」と打ち明ける。ホクレン中長距離チャレンジは、8日に深川、15日に網走、18日に千歳と計4戦が行われ、深川は無観客開催が決まっている。網走大会以降に観客を入れるかについては、状況を見極めながら判断していく方針。陸上界も見えない敵と戦っている。