女子1500メートル・田中希実、新国立の日本新1号!14年ぶり更新「安心した」
「陸上・セイコー・ゴールデングランプリ」(23日、国立競技場)
セイコー・ゴールデングランプリが23日、来夏に延期された東京五輪のメインスタジアムである国立競技場で、無観客で開催された。女子1500メートルは田中希実(20)=豊田自動織機TC=が4分5秒27で優勝。2006年に小林祐梨子(須磨学園高・当時)がマークした4分7秒86の日本記録を2秒59上回り、14年ぶりの記録更新となった。
残り1周。新国立競技場に響く鐘の音が“よーいドン”の合図だった。ラスト400メートルから田中が一気にペースアップ。力強く腕を振り、前へ出た。後続とみるみる差を広げ、軽快な走りのままゴールイン。日本記録を14年ぶりに更新する力走を披露した。「日本記録を狙っていたけど、有言実行できるか直前までわからず、不安の中でいい走りができてよかった。あらためて記録を見て、とてもうれしくて安心した」。感慨深げに振り返った。
1周66秒のペースを着実に刻む計画通りの快走に見えたが、実は「頭が真っ白な状態」だった。レース前に靴底の厚さが規定外であることが判明。急きょ替わりの靴を用意する事態となった。
ただ、どんなレース展開でも対応できる練習を積んだ自信はあった。だからこそ「1本に懸けて日本記録を狙う不安や緊張が増す中、レース展開を逆に考えずに行こうという開き直りみたいな気持ちがあった」。感覚に従い、スタートラインに立ち「無我夢中」でさっそうと駆け抜けた。
従来の日本記録を保持していた小林祐梨子さんは同郷で憧れの先輩。15年2月、小林さんの引退試合となった兵庫県郡市区対抗駅伝では、小野市代表のチームメートとして出場した。家も近く、幼少期から家族ぐるみで交流があるといい、今でも一緒にジョギングする関係だ。小林さんとの会話の中で何度も背中を押され「あらためて日本記録を出したい気持ちが強まった。うれしい気持ちを祐梨子さんに伝えたい」。この日の力走は、恩返しの一歩目だった。
7月に3000メートルの日本新記録を樹立し、5000メートルは昨秋の世界選手権で東京五輪の参加標準記録を突破。得意の1500メートルでも東京五輪の参加標準まで1秒07に迫った。女子1500メートルは、日本陸上界で男女を通じて唯一、過去に出場者がいない種目だ。
「来年は東京五輪がここで開催される予定です。その時に、今日みたいな走りを皆さんにお見せできるように精進したいです」
前人未到の地へ。日本人初の快挙は、もう手が届くところまでやってきた。