桐生祥秀6年ぶりV!10秒27でも「勝ち切った」五輪へ「強さと速さ兼ね備える」
「陸上・日本選手権」(2日、デンカビッグスワンスタジアム)
男子100メートル決勝が行われ、前日本記録保持者の桐生祥秀(24)=日本生命=が10秒27(向かい風0・2メートル)で6年ぶり2度目の優勝を飾った。4年ぶりの優勝を狙ったケンブリッジ飛鳥(27)=ナイキ=は0秒01差の2位。9秒98の自己ベストを持つ小池祐貴(25)=住友電工=が2年連続で3位に入った。
ゴールを駆け抜けると、右手人さし指で“No.1”を誇示した。大激戦を制した桐生は、観客席に向かってお辞儀をし、両手を上げて声援に応え、静かに6年ぶりの日本一の喜びをかみしめた。
「6年間注目してもらってきた。“誰が勝つか?”という名前の中に、常に入れてもらっていたけど勝ちきれなかった。勝ちきれたのは本当に大きい」
号砲と同時にスタート巧者の多田らに前に出られたが「想定内」と、落ち着いて対応。スムーズに加速していき得意の終盤に一気に追い込み、5位までが0秒07差にひしめく、大接戦を制した。
18歳で制した14年大会以降、頂点は遠かった。勝負弱さが付きまとい、接戦を落としてきた。足りなかったのは覚悟。すべてのスポーツが止まったコロナ自粛中、プロアスリートとして、1人の社会人として、考えを深めた。練習場が閉鎖となり、ぽっかりと空いた時間。簿記や経済学の本を読みあさった。
「明日もし陸上選手じゃなくなったらどうなるかを考えて過ごしていた」。今年元日に一般女性と結婚もした。未来を思い描く中で、改めて実感したのは現在(いま)の大切さ。「自分にどれだけの価値があるか。今はスポンサーがついてるけど、半年勝てないと離れてしまうかもしれない。でも、それを含めて楽しんでやっている」。勝ちきれた要因を問われるときっぱりと言った。「プロとしてこれ(陸上)で生活していくというけじめ。1回1回の勝負で桐生祥秀の名前を世に広めていこう思って走った。甘えがなくなった」-。
前年覇者で日本記録保持者のサニブラウン・ハキームは不在。ただ、タイムは平凡でも取り戻した日本一の称号は、勝負の東京五輪シーズンへの確かな糧となった。「来年は強さと速さを兼ね備えた選手として帰ってきたい」。殻を破った24歳に未来が開けた。