東京五輪新種目のサーフィンの代表候補として注目を集めるのがサーフィンの本場、ハワイのノースショア出身の前田マヒナ（２２）だ。１１月初旬のジャパンオープンで初優勝したことで、来年５月に開幕する東京五輪最終予選の出場権を獲得したばかり。サーフィン界のニューヒロインはこのほど、日本の滞在先である神奈川県茅ケ崎市の「Ｋ　ＯＨＡＮＡ’Ｓ」カフェでデイリースポーツの取材に応じ、五輪出場への熱い気持ちを語った。

　今、最も波に乗る前田は、湘南の穏やかな日差しを浴びながら、東京五輪への燃える思いを語った。

　「ジャパンオープンの優勝はステップワン。（五輪最終予選の）世界選手権もあるし、オリンピックもある。ビッグウエーブ用のトレーニングをやり続けて挑みたい」

　東京五輪代表候補に躍り出た実力者。波乗りとの出会いは４歳の時だった。

　「お父さんと一緒に２人乗りのタンデムサーフィンをやりました。私が前に乗って、腕には浮輪、頭にはピンクのゴーグルを付けて。それだけ覚えてます（笑）キャーキャー言ってました」

　次第にサーフィンにのめり込むと、５歳で試合に初挑戦した。

　「初めて出たのは、ハワイのキッズコンテスト。子供だからみんなトロフィーがもらえました。１０歳の時に初めてそのイベントで優勝して。『あ、優勝できるんだ』『楽しいな』って。そこからプロサーファーになりたい気持ちが出てきたかな。もっと試合を回りたくなりました」

　気持ちに火が付き、２０１３年、１４年と世界ジュニア選手権（１６歳以下の部）を２連覇。１４年には世界サーフリーグ（ＷＳＬ）のジュニアタイトルも獲得し、気がつけばトップサーファーに上り詰めていた。そして１６年、サーフィンの五輪競技入りが決まった。

　「スポーツ選手と言えば、オリンピックのイメージが強くて。だからオリンピックアスリートになれる可能性があることがうれしかった。だけど『もう１個大会が増えただけ』という気持ちでもありました（笑）」

　五輪選考が始まった１９年には、生まれ育ったハワイから米国代表として出るのではなく、日本代表として戦うことを選択した。

　「お母さんとお父さんが共に日本人で、私のルーツは日本人だと。ハワイもいいけど、日本の方が“侍”。侍ってすごいかっこいいなと。世界で優勝するために、日本の方がチャンスがあるし、オリンピックのチャンスもありました」

　大のアニメ好きで、大人気アニメ「鬼滅の刃（きめつのやいば）」も視聴中だ。鬼滅と言えば主人公たちが身につけるさまざまな呼吸法が魅力で、映画では人気キャラ・煉獄杏寿郎（れんごく・きょうじゅろう）が“炎の呼吸”の使い手として活躍するが、前田のトレーニング法にも「ブレスオブファイヤー（火の呼吸）」と呼ばれる腹式呼吸があるという。

　「長く息を止めるトレーニングで、試合やビッグウエーブ、人生などでパニックにならないように毎日やってました。人は緊張するとチェスト（胸）を使いがちなので、ブレスオブファイヤーではおなかを使う。ヨガのメデュケーション（瞑想）に似てます」

　緊張する場面が多いからこそ、冷静さを磨く必要があった。酸素を多く取り入れることで血流が良くなる“火の呼吸”には、コツもある。

　「考えちゃうと、息を長く止められない。エンプティマインド（空の心）でした方がいい」

　この“全集中”でジャパンオープンも決勝までの５戦全て１位で、他を圧倒した。自由自在に波乗りする“水の呼吸”だけでなく、“火の呼吸”もあやつる前田。まずは五輪に出場するために来年の五輪最終予選で結果を残さなければならない。

　「ジャパンオープンで優勝した後に、もっとファイヤーアップ（熱意が増）しました。去年までは、代表に入りたいけど気合が足りなくて。でも強くなって、自分の１００％を出せる自信が今はある。（五輪出場も）『絶対できる』って。（五輪は）ホームカントリーでやるから、１番出たい気持ちがある」

　優勝も自信に、さらなる高みを目指す。同時に目指すのはハワイのビッグウエーブ・ジョーズ（マウイ島の大波ポイント）の攻略と世界最高峰のチャンピオンシップツアー（ＣＴ）のタイトル獲得だ。

　「ビッグウエーブはこれからがシーズン。楽しみです。後はＣＴ入りしたら、その年にワールドタイトル（年間女王）を取りたい」

　大きな夢は五輪にも抱く。

　「目標はゴールド。優勝したいだけ。優勝の『ａｄｄｉｃｔｉｏｎ（中毒）』。（１５歳で）初めて（Ｕ１６の）ワールドタイトル取った時の気持ちが忘れられない。オリンピックでゴールドメダルを取った時に、もう１回その気持ちが欲しくて、ずっと戦ってます」

　笑顔が似合う２２歳は、夢を語る真剣な表情も見せた。大舞台で最高の気分を味わうためにも、心を燃やして鍛錬する。