白鵬「『引退』の2文字が隣に来ていた」復活Vに祝福の嵐 モンゴル総理大臣からも電話
大相撲名古屋場所で7場所ぶり復活となる45回目の優勝を果たした横綱白鵬(36)=宮城野=が19日、リモートで優勝一夜明け会見を行った。「きのうのあの激しさから(一夜明け)素晴らしい日だね、きょうは。最高です」と、缶コーヒーをグイッと飲んだ。
6場所連続休場で横綱審議委員会(横審)から史上初の「注意」決議を受け、進退を懸けて臨んだ場所。「本当に自分の相撲人生というか、今までのこともあったし、44回の優勝とはまた…。その中で思い出になる上位に入ってくる。価値のある優勝」と、格別な思いがあふれた。
手術した右膝がいつパンクしてもおかしくなかった。「肉体的にも精神的にも大きかった。徐々に体が一致してきた。序盤に取りこぼさなかったのが大きい」。カギはやはり初日、新小結明生(立浪)戦だった。
立ち合い、本来は左足から踏み込むが、軸足の右足が不安のため、踏み込む足を逆にした。それもほぼぶっつけでの投入。「野球で例えるなら左バッターが場所(シーズン中)から右バッターになる。それで取らないといけない。(初日に)その相撲で勝ったのが大きい」。だからこそ、初日、勝った瞬間、気迫の表情になった。
2007年夏場所後に横綱昇進。すぐに“昭和の大横綱”大鵬(故人)氏を訪れ、教えを請うた。「横綱は勝てなければ、引退を考えないといけない」との言葉をもらい、ずっと胸に刻んできた。
「今場所は『引退』の2文字が近づいて、本当に隣に来ていた」と崖っぷちだった。
終わってみれば、歴代最多を更新する16回目の全勝優勝で復活した。36歳4カ月の優勝は千代の富士の35歳5カ月を上回り横綱最高齢(年6場所の1958年以降)となった。
危機を脱したのは、「51回目の8戦全勝」と言う。「10勝が横綱の勝ち越し、12勝が2桁。12勝になってこれで優勝を目指そうという気持ちになった」と心境を明かした。
右膝に関しては「水がたまっている感覚」と、まずは治療に専念。秋場所(9月12日初日、両国国技館)に向け体を回復させる。
千秋楽全勝決戦の相手、新横綱となる大関照ノ富士(伊勢ケ浜)を14日間、土俵下から見ていた。「安定感がある相撲だった。何年か前の相撲と違って緻密な動きをしていた。重さ、圧力もあった」と成長を認めた。
激しい相撲となり、かち上げ、張り手、最後は小手投げで粉砕。ガッツポーズして感情をあらわにした。「44回優勝している経験が生きていた。相撲は2本の足、2本の手、すべてを使って勝利につながると改めて思った。足の部分で少し弱まったけど経験、スピードで足をカバー。36歳で健在となった」と、まだ壁になった。
今は先のことは考えられない程、疲れ切った。「朝、起きて、きょうは何もないんだよなという気持ちよさ。きょうは稽古に行かなくてもいい、体を動かさなくてもいい。次ってなったら勘弁してもいらいたい。ゆっくりします」と、安どの表情を浮かべた。
モンゴルの後輩と秋場所(9月12日初日、両国国技館)は両横綱。「1人から2人になる。託す部分もあるし、少しは楽になる部分もある」と語った。
東京五輪を現役横綱で迎えるという亡き父との約束も果たした。名古屋場所には父がメキシコ五輪で獲得した銀メダルも届けられた。その宝物を手に父とともに、最後まで戦い抜いた。
今年、モンゴルは民族独立革命100周年の祝いにもなる。コロナで同国の祭典「ナーダム」が中止になり、「国民の8割が相撲を見ていた」と言う。
「電話がすごかった。総理大臣からも電話があった。ナーダムがない分、みんな欲してたんだろうね」と、うなずいた。