涙の頂点 全盲の競泳・木村敬一 表彰台は「唯一金メダルを獲ったと認識できる時間」
「東京パラリンピック・競泳」(3日、東京アクアティクスセンター)
競泳男子100mバタフライ(視覚障害S11)で全盲のエース・木村敬一(30)=東京ガス=が1分02秒57でパラリンピックで自身初となる金メダルを獲得した。富田宇宙(日体大院)は1分03秒59で銀メダル。日本勢のワンツーフィニッシュとなった。
木村が大本命のバタフライで、ついに頂点に立った。「頑張ってきたこの日って、本当にくるんだなって思って、特にこの1年いろんな事があって、この日が来ないんじゃないかなと思っていた事もあるので、それもしょうがない事だと思ったし、ちゃんとこうやって迎える事ができてすごい幸せです」
08年北京大会から4大会連続で出場。過去3大会で6個のメダルを獲得するなど、長年エースとして日本パラ競泳界を引っ張ってきたが、パラリンピックでの金メダルは初だ。
ずっと目指してきた場所だった。自信を持って臨んだ前回のリオ大会では最高でも銀メダル。東京大会で悲願を達成するために、18年に単身で米国に武者修行に行くなど、努力を重ねてきた。
レース後は隣レーンを泳いだ富田と抱き合って喜んだ。「僕は世界で誰一人として負けたくないっていう思いでやったきた。国際大会でも国内大会でも常に刺激してくれた宇宙さんの存在は、僕が今日戦う上でなくてはならないものだった」。富田がいたからこそ、「今日の決勝の舞台で僕はプレッシャーに押しつぶされずに戦い切れたのだと思います」とずっと隣で競い合ってきた良きライバルと最高の舞台で、最高のレースを展開し、充実の表情だった。
やっとの思いで表彰台の一番上に立って国歌を聞くと大号泣。目が見えない木村にとっては「僕が唯一金メダルを取ったんだと認識できる時間だと感じて。そう思うと、ここは我慢しなくて良いかもしれない」と思いがあふれ出た。
場内インタビューでは号泣していたが、取材エリアではいつも通り。金メダルの感触は「メダルでしたね(笑)」と笑いも忘れない。長年の努力が実を結んだ金メダル。「今日という日に、僕よりも強い人がいないという事実だけで十分です」と輝く笑顔を残していった。
◆木村敬一(きむら・けいいち)1990年9月11日、滋賀県栗東市出身。2歳の時に先天性の網膜はく離により視力を失った。目が見えない中でも思い切り動けるように、と母のすすめで小学4年時に水泳を始め、中学で本格的に競技に取り組み始めた。パラリンピックは08年北京大会から4大会連続出場。東京ガス所属。