中国選手失踪「静かな外交」動かぬIOCへ批判相次ぐ「10億ドルパーティーのため」
女子テニスのダブルス元世界ランク1位の彭帥(Peng Shuai)が中国共産党の最高指導部メンバーだった張高麗元副主将との不倫関係を告白した後、安否不明となっている問題で、来年2月に北京五輪を控える国際オリンピック委員会(IOC)の姿勢に批判が相次いでいる。
同問題について、スポーツ団体、選手らから懸念の声が相次いでおり、女子テニス協会(WTA)は、中国メディアで彭さんが執筆したと報じられた「自宅で休養しているだけで、すべて良好です」というメールについて、スティーヴ・サイモン最高経営責任者の声明で「信じるのは難しい。彼女の安全と居場所への我々の懸念は高まる一方だ」と指摘。「世界中が彼女の安全を証明する独立した検証可能な証拠を必要としている」と訴え、適切な説明がない場合、中国市場からの撤退も示唆している。また、大坂なおみや、ノバク・ジョコビッチら男女のトップ選手も彭さんの状況に懸念を表明している。
一方で、IOCは、五輪開催国への配慮からか、現状で静観の姿勢を崩していない。AP通信などによると「これまでの経験からこのような性質の問題において解決策を見つけるには、静かな外交が最善である」と声明を発表。多くが疑う中国側が彭さんのものと主張するメールについて「無事という説明を心強く思う」と鵜呑みにする認識を示したという。
IOCと中国を巡っては、東京五輪を前にした今年3月のIOC総会後にバッハ会長が中国側から新型コロナワクチンを東京五輪参加者に提供する提案があったことを発表。日本側は知らされていないほどの電撃的な発表だった。各国が問題視する新疆ウイグル自治区の人権問題についても、IOCは静観する姿勢を示しており、中国側への配慮が際立つ。
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチは声明を発表し、IOCの姿勢を「重大な告発をする女子オリンピック選手を犠牲にし、IOCが政府の説明をうのみにするとは驚きだ」と批判。また、英テレグラフ紙は「彭帥の失踪を巡って、中国への呼びかけを拒否した臆病なIOCは職務怠慢」と批判記事を掲載した。AP通信も「彭帥はどこにいますか?なぜIOCは発言しないのか?」とのコラムで「IOCは(中国の)ばかげた不器用な策略に満足しているようで、2月4日に北京で開催される10億ドル規模のパーティーのために、それを揺るがすようなことはしたくないようだ」と、皮肉った。
この日、バッハ体制と距離があるとされるIOC最古参委員のディック・パウンド委員はロイター通信に「この件が賢明な方法で早急に解決されなければ、制御不能がある」と見解を示し「五輪の中止にまで悪化するかは疑わしいが、分からない」と、中止の可能性にも言及したが、果たしてスポーツ界の巨人は重い腰を上げるだろうか。