引退の内村航平が唯一手にできなかったもの 新技「ウチムラ」なしも「逆にありかな」
体操男子で12年ロンドン五輪、16年リオデジャネイロ五輪個人総合2連覇の内村航平(33)=ジョイカル=が11日、現役を引退することを発表した。09年~16年まで五輪、世界選手権で8連覇を飾り、“絶対王者”と呼ばれたレジェンドが第一線を退く決断を下した。
栄光に彩られた競技人生の中、内村が唯一体操界の歴史に刻めなかったものがある。新技「ウチムラ」。国際大会で新たに発表した技には、成功させた選手の名がつく体操。日本では床、跳馬で計6つの自身の名がつく技を持つ白井健三を筆頭に、多くの選手が新技を認定されている。
ただ、「ウチムラ」は最後まで名付けることはできなかった。それには内村ならではのこだわりがあった。チャンスがなかったわけではない。内村は2010年に後に「シライ/キムヒフン」となる「伸身ユルチェンコ3回ひねり」を国内大会で成功させている。ただ、譲れないポリシーがあった。「ただやるんじゃなく、演技として完成したものでないと意味がない」、そして「やるのであれば、誰にもできないような技を」-。
鉄棒に専念した昨年、新技について語っていたことがある。「ねえ、それは欲しいですよ。自分の名前がついた技」と苦笑いしつつ、「ただ、ここまで個人総合や五輪で結果を残してきて、あえてないというのもありかな、と。“あいつあれだけ勝ったのにないらしいよ”と言われるのも、逆にありかなと思う」。偉大なる王者が唯一手にできなかったもの。それがまたこの男の凄みを際立たせる。