【五輪コラム】「寒々しい祭典」にならないように 北京冬季五輪が開幕
北京冬季五輪が4日、開幕した。昨年夏の東京五輪に続き、新型コロナウイルスのパンデミック下での祭典となる。ゼロコロナ政策をとる中国での大会は、東京よりも数段、厳格な感染対策が施されている。選手ら大会関係者は外部との接触を遮断された「バブル」の内側のみに行動を制限される。
東京でも痛感した祝祭感のない五輪から、どんなメッセージが世界に発信されるのだろうか。大国の権威主義を前面に押し出す中国に対する国際社会の目は厳しい。「雪と氷の祭典」が文字通りの寒々としたイベントにならないよう、選手たちにはフェアプレーを期待したい。
▽不自由な「バブル」の内側
開幕前に北京に先乗りした同僚の記者たちから悲鳴が届いている。報道陣を含む選手、役員ら大会関係者は指定された五輪会場、関連施設、宿舎など目に見えない「膜」で覆われたバブル(大きな泡)内に行動を制限され、その外側には一切、出ることができない。競技場などへの移動も指定車両を使用する。感染防止のため、専用車両の窓の開放も禁じられているという。外部と接触できない記者は、五輪都市の市民の声を拾って伝えることもできない。
街のレストランに食事に出かけることも禁止だ。外国報道陣向けのメディア施設やホテルの食事は法外な価格だそうで、東京から持ち込んだパックごはんやカップ麺でしのぐことも多いという。そうした制約の中、関係者は毎日1回のPCR検査も義務付けられている。
昨夏の東京五輪は無観客開催だった。選手もテレビ観戦した視聴者も、「やむを得ない」と諦めの心境だったが、選手のスーパープレーや劇的なメダル獲得シーンのたびに、「もし観客が入っていれば、どれほど盛り上がっていたことだろう」と何度も思った。
北京五輪でもチケット販売は国内外とも取りやめとなったが、厳選した招待客だけをスタンドに入れるという。いったい、どんな人が観戦する機会を得るのだろう。限られた観客が、盛り上げ役を務めるのだろうか。いずれにしても、五輪の理念の一つであるスポーツを通じた国際交流は、かなり限定されることになる。
▽大国の権威にすり寄るIOC
中国の人権問題や周辺地域への軍事威嚇などに対して、国際社会は非難を強めている。北京冬季五輪では、大会に政府要人を派遣しないという外交ボイコットを米国が主導し、英国、オーストラリア、カナダなどが追随した。この呼び掛けは大きなうねりにはなっていないが、中国を巡る複雑な国際力学は暗い影を落とす。
開会式の開幕宣言は習近平国家主席。式典に出席の外国VIPの顔ぶれが国際情勢を反映している。大国中国の威信誇示、米英など西側諸国へのアンチテーゼ、米中対立の板挟みにあう日本など周辺諸国の苦悩…。五輪はいつの時代も政治と切り離せない宿命にある。
国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は、大会前に中国の体制にすり寄る姿勢を見せてひんしゅくを買った。東京五輪前には、コロナ禍での開催を不安視する日本国民の感情を逆なでする言動で非難され、傲慢(ごうまん)な「五輪第一主義」「金権主義」を世界のメディアからたたかれた。IOCは、信頼を失墜させたままで北京五輪も押し切ろうとしている。国営メディアが幅を利かせる中国ではIOC批判は目にしないであろうが、西側メディアは今回もまたIOCの動向を監視している。それほど五輪運動の将来に危うさを感じているからだ。
▽「五輪の窓」はテレビ
東京大会に続き、北京もまたテレビが唯一、開かれた「五輪の窓」になる。テレビ向けの巨大イベントと化した五輪ではあるが、スポーツファンにとっては楽しみの多い大会になりそうだ。
東京で夏季五輪史上最多のメダルを獲得した日本の競技力は冬季スポーツでも活況を呈している。スケートではフィギュア男子で羽生結弦が3連覇を目指し、スピードはメダル量産が期待できる。スキーではジャンプ男女を小林陵侑、高梨沙羅の両エースが引っ張る。フリースタイルスキー、スノーボードでは若い世代から金メダル候補が台頭している。カーリング女子も再び注目を集めそうだ。
前回の平昌大会で日本は金4、銀5、銅4の過去最多のメダル13個を獲得した。北京大会でも波に乗ってこれを上回る成績を目指す。若い選手が多いだけに、勢いがつけばメダルラッシュがさらに加速する可能性もある。
コロナ禍で競技会が相次いで中止となり、練習環境にも苦労したのはすべての選手が経験した試練だった。世界でオミクロン株が猛威を振るう中、大会直前に感染が判明し欠場に追い込まれる有力選手も出ている。
北京五輪にたどり着いた選手が大変な道のりを経てきたと同様に、選手を迎え入れる大会運営側もさまざまな犠牲を払って開幕にこぎつけた。冬季アスリートには、感謝の気持ちを込めて「スポーツができる喜び」「スポーツが持つ素晴らしさ」をテレビを通じて世界に届けてもらいたい。(共同通信・荻田則夫)