【五輪コラム】滑り、エアに迷いか 女子モーグル5位の川村あんり
今季のワールドカップ(W杯)女子モーグルで7戦中3勝してランキングトップ。長野冬季五輪の里谷多英以来24年ぶりの金メダル獲得が期待された17歳の川村あんり(東京・日体大桜華高)は6人による決勝3回目に進んだが、金メダルのジャカラ・アンソニー(オーストラリア)、銀のジェーリン・カウフ(米国)らライバルたちの得点の伸ばし合いについていけず、5位にとどまった。
▽決勝2回目に異変
決勝1回目は2位で順調に通過した。異変を感じたのは決勝2回目のスタート直後だった。第1エア前で慎重にスピードを落としてエアを飛んだ。中間部分でややスピードを上げたが、1回目よりタイムは0秒47遅く得点も下げ3位に後退した。
滑りに迷いがあった。エア点はこのフェーズの通過者6人の中で最下位だった。明らかに思い切りが悪く、技が一回り小さかった。消極性を決勝3回目も引きずった。第2エアの「コーク7」(軸をずらして2回転)が右に流れ、着地で脚が開くという失敗もあり、さらに得点を下げた。
今季W杯3勝のうち2勝はエアで後方宙返りを2度する構成だった。同じ技の繰り返しは基本的に駄目だが、前回五輪後にルール改正され、グラブのありなしを変えれば認められるようになった。コーク7よりも難度は低く、高得点を得るには高い完成度が求められるが、一方で左右へのひねり回転がないため、着地が比較的楽で、思い切って大きく飛べる。スピードにも強い川村はそれを武器とし、当然、北京五輪でもそれを選ぶものと思っていた。
3日の予選1回目に「そうやろうとして失敗した」とインタビューで示唆してもいた。ところが、その予選1回目でコーク7が決まったことが逆に災いした。難しい技を決めれば、ライバルに差をつけられる。一方で失敗のリスクを潜在的に抱え込む。メダルがかかるフェーズになるにつれ、その失敗を恐れる気持ちが大きくなっていったのではないか。6日の決勝は「持ち味のターンで他との差が感じられなかった。ぐっと迫って来るものがなかった」とある審判員は語った。
▽上村の滑りほうふつ
川村が全日本スキー連盟の公式戦に初めて出場したのは10年前の2012年1月。川村は当時7歳。この試合で私は審判員を務めていた。コブの中に隠れてしまうほど背の低い子供たちが何人か出場していたことを覚えているが、その中の一人だったのだろう。その後も何度か滑りを見ているが、コブの頂点をポンポンと飛んで滑ってきて、エアで勝負する選手という印象が強かった。それが変わったのは全日本スキー連盟の強化指定選手となった3シーズン前だ。
一つ一つターンをしっかりする選手に変貌していた。スキーが雪面から離れない。コブをうまく吸収しながらカービングする全盛期の上村愛子の滑りをほうふつさせた。上村の最初の五輪は18歳だった長野五輪で、7位だった。川村は1年早く五輪に出場し、順位も二つ上回った。上村が届かなかった悲願のメダルを次の五輪で期待したい。(全日本スキー連盟A級審判員、スポーツライター・石井浩)