若隆景が初優勝 双葉山以来86年ぶり新関脇V&福島出身力士では50ぶり賜杯
「大相撲春場所・千秋楽」(27日、エディオンアリーナ大阪)
新関脇若隆景が優勝決定戦で平幕高安を上手出し投げで退け、初優勝を果たした。本割では若隆景が大関正代に、高安が関脇阿炎に、平幕琴ノ若が小結豊昇龍にいずれも敗れ、12勝3敗で並んだ若隆景と高安による決定戦に持ち込まれた。若隆景は双葉山以来86年ぶりの新関脇優勝を、福島県出身力士として50年ぶりの優勝で飾った。
いつものポーカーフェースがゆがみそうになった。こみ上げるものを必死でこらえ、若隆景が花道を引き揚げた。降り注ぐ拍手の中、長兄で付け人の幕下若隆元に出迎えられる。「おかげさまで」。悲願の初優勝。相撲一家の夢を、三男坊がかなえた。
先に高安が敗れて勝てば優勝の本割では、正代の圧力に寄り切られた。切り替えて迎えた決定戦。鍛え抜いた下半身の粘りが生きた。右へ回り込んで攻め手を探る中、はたいたところを一気に俵に詰められた。だが、ここからが真骨頂。のけ反ってこらえると、ギリギリのところで相手の左手をたぐりながら右上手を引っかけ、土俵の外へ放り出した。「一生懸命相撲を取って、最後何とか残れたのでよかった」。諦めない姿勢に、相撲の神様もほほ笑んだ。
祖父は元小結若葉山、ちゃんこ店を営む父・大波政志さん(54)は元幕下若信夫。2人の兄に続いて、小1で相撲を始めた。転機は小学6年の時だ。3年連続で同じ相手に負けて地方大会敗退。笑っていると、父にぶっ飛ばされた。「仲間でもありライバルでもあるんだぞと。そこからだね。気持ちが変わった」(政志さん)。素質では長兄や次兄の若元春に及ばなかった末っ子に、父自ら兄弟で唯一、相撲を直接指導。伝授されたおっつけなどの基本は、今もしっかりと生きている。
祖父の番付を超えて臨んだ場所で、双葉山以来86年ぶりの新関脇V。若隆景は「うれしい。今日は家族も見に来ていた。いつも支えてもらっているので、いいところを見せられたかな」と喜びをかみ締めた。福島県出身力士では50年ぶりに賜杯を抱き「震災から11年。まだまだ復興が進んでないところもある。土俵でできることを精いっぱいやって、いい姿を届けたい」とさらなる活躍を誓った。
三役で12勝を挙げ、大関とりの足がかりも築いた。「来場所からが大事。しっかり稽古をして自分の相撲を取れるようにしていきたい」。強くたくましくなった大波三兄弟の三男坊。目指す高みはまだまだ上にある。
◆新関脇の優勝 1932年2月場所の清水川(8戦全勝)、36年5月場所の双葉山(11戦全勝)に次ぎ3人目。49年5月場所の15日制導入以降では初。
◆三段目付け出しデビュー力士のV 2015年の制度導入以降、19年初場所の朝乃山に次いで2人目。
◆荒汐部屋 2002年に先代荒汐親方(元小結大豊)が独立して21年目で初の優勝力士。現師匠の荒汐親方(元幕内蒼国来)は20年2月に部屋を継承。若隆景の2人の兄、幕内若元春と幕下若隆元、十両荒篤山ら11人の力士が所属。
◆福島県出身力士の優勝 1953年5月場所の時津山、72年初場所の栃東(初代)に次ぎ3人目。
【若隆景アラカルト】
◆しこ名 若隆景 渥(わかたかかげ・あつし=本名大波渥)
◆生まれ 1994年12月6日、福島県福島市
◆相撲歴 吉井田小1年から福島県県北相撲協会で相撲を始める。信夫中から学法福島高に進学。全日本ジュニア体重別選手権100キロ未満級優勝、世界ジュニア相撲選手権軽量級2位。東洋大では相撲部副主将を務めた4年時に全国学生選手権団体優勝、個人準優勝。
◆プロ入り後 荒汐部屋に入門し、2017年春場所で初土俵。18年夏場所で新十両。19年九州場所で新入幕。昨年名古屋場所で新三役の小結。今場所で新関脇。
◆優勝 幕内1回、幕下1回、三段目1回
◆三賞 技能賞3回
◆好きな食べ物 福島の桃、寿司
◆趣味 映画や海外ドラマ観賞、魚をさばくこと
◆愛称 アツシ
◆サイズ 181センチ、130キロ
◆得意 右四つ、寄り
◆家族 夫人と1男3女。祖父が元小結若葉山、父が元幕下若信夫、兄が若隆元、若元春という相撲一家。
◆しこ名の由来 3兄弟の三男ということで、三本の矢で知られる毛利元就の3人の息子の一人、三男・小早川隆景にあやかった。