田中希実「負荷がないと楽しめない」 中長距離で異例3種目出場の理由とは

 小林祐梨子さん(右)の自宅でくつろぐ田中希実=20年9月(小林さん提供)
 オンラインで対談する田中希実
 うちわデザインで大賞に輝いた中学生時代の田中希実
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 陸上の世界選手権(米オレゴン州ユージン)が15日(日本時間16日)に開幕する。東京五輪の女子1500メートルで日本人初の8位入賞を果たした田中希実(22)=豊田自動織機=は、800メートル、1500メートル、5000メートルと中長距離では異例の3種目に出場する。1500メートル前日本記録保持者の小林祐梨子さん(33)が、同じ兵庫県小野市出身で親交が深く、自身の日本記録を更新した「のんちゃん」とオンラインで対談。世界選手権への意気込みや、前例のないレース出場を続ける意図、またプライベートの素顔にも迫った。

  ◇  ◇

 (6月下旬に合宿先の長野県菅平からオンラインでつないで)

 小林祐梨子さん(以下、小林)「今季は400メートルにも挑戦してスターティングブロックをつけている姿が印象的だった。のんちゃんはずっと短距離が苦手だったけど、スピードは今が一番速いね」

 田中希実(以下、田中)「海外では26、27歳で中距離のベストをバンバン出している。筋力的なピークは20歳くらいだと思うけど、体の使い方とかレース中の力の使い方とかコツをつかめば、ベストは年齢が上がれば出ていくのかなと。400メートル(専門)の選手みたいなタイムではないけど、59~61秒くらいでいつでも走れるコツを最近つかめつつある。その感覚を延長できたら、800メートルも2分前後で走れるんじゃないかと思っています」

 小林「6月の日本選手権は3種目に出場(1500メートル、5000メートルで優勝、800メートルで2位)し、世界選手権の出場権を狙った。普通は出るだけでも目標なのに、それを自分に課しているのか、それとも楽しんでやっているの?」

 田中「その間と言うか…。自分の場合はある程度の負荷がないと楽しめないんです。できて当たり前と思われていることをする時に、頑張らないといけないのに、何でこんなに頑張らないといけないのかとか、本当にできるのかとか、葛藤やイライラがある。(日本記録を持つ)1500メートルだけに絞ったら、優勝して当たり前と思われているんじゃないかと感じて、楽しくなくなってしまう。でも、周りから見てすごいと思ってもらえるチャレンジをしていることで、初めて失敗してもいいからやってみようと前向きな気持ちになるんです。たぶんハッサン選手(オランダの中長距離選手、東京五輪で3種目出場して2冠)も、そうしないと精神状態が保てないからやっているんじゃないかな。気持ちのバランスを取るために、そういう方法しかないという感じ」

 小林「うーん、わからないなあ。3種目もチャレンジしたら疲労もあるし、言い訳を見つけてしまいそう。もし達成したら、うれしくて跳びはねると思うけど、のんちゃんは(予選から合計)5本目の5000メートルで優勝しても淡々としていた」

 田中「5000メートルの後は本当にホッとして、生まれて初めてゴール後にガッツポーズをしていました。今回のチャレンジ自体が自分との戦いだと思っていたので、最後はライバルではなく自分に勝てたというガッツポーズ。妹には『ガッツポーズした時はかっこよかったけど、人を殺しそうな顔してたよ』と言われて面白かったです」

 小林「次々と階段を上って、背負うものも大きくなってきたね」

 田中「世界のレベルにはまだまだなので、世界と日本のレベルの間の溝に落ちている感覚です。その溝って深いと思うけど、そこを飛び越えればまた違う世界があって達観できたりするのかなって。今は一番どっちつかずでしんどい状態かな」

 小林「陸上以外で楽しい時間は?」

 田中「(合宿先の)菅平では陶磁器のお店を見に行きました。(自宅は)物だらけです。パッと見た時に形とか模様が好きな物はつい買っちゃうので」

 小林「私のコーヒーカップはフィンランドのマリメッコでのんちゃんが買ってきてくれた物。自宅の玄関では北海道のお土産で私はモンチッチ、旦那はメロン熊、子ども2人のキャラクターの4体がお迎えしてくれる。のんちゃんは感性が面白いよね。もし陸上をしてなかったらどうしてたかな?」

 田中「本を書いていたかもしれないし、絵も昔は好きでした。走ることと一緒で、才能以外の部分でも、突き詰めたら何か得るものがあったと思う。それで大成するかどうかはともかく、何か自分のやることは見つけられていたと思います」

 小林「小野市では毎年中学生がうちわのデザインを考えて1人が選ばれる。小野市民共通の自慢なんだけど、のんちゃんの絵も選ばれたよね」

 田中「中学3年の時です」

 -成人式の時は、小林さんから図書券をプレゼントしたと。

 小林「おしゃれな物も考えたけど、好きな物がいいかなと」

 田中「私、あまりファッションがわからなくて」

 -昨年末の日本陸連の年間表彰式「アスレティックス・アワード」はドレス姿で登場した。

 田中「あれはスタイリストさんがついてくださったので楽しかった。初めての時は自分で服を探さないといけなくて、大阪でドレスがありそうなところを一日中歩き回ってすごく疲れました」

 小林「レースもこだわりが強いし、これは違うって考え出したら一日かかるんやね。何か、毎日続けていることはあるの?」

 田中「日記は小学3年から毎日つけています。愚痴的なことは全部、言葉遣いもすごい。一日2、3ページは書いています。日記のノートは遠征先で記念になるような物を買うことが多くて、今は室内陸上で行ったセルビアのノート。その前は北九州駅伝の時に買った、新幹線の絵の物ですね」

 ◆田中希実(たなか・のぞみ)1999年9月4日、兵庫県小野市出身。西脇工高から同大を今春卒業。18年世界ジュニア選手権3000メートルで金メダル。1000メートル、1500メートル、3000メートルの日本記録を保持。東京五輪の1500メートルでは日本人初の決勝進出と8位入賞を遂げた。今季の日本選手権は1500メートルで3連覇、5000メートルとの2冠を達成。父・健智さんがコーチを務め、母・千洋さんは97年、03年と北海道マラソンを2度制している。身長153センチ。

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