壷井達也は現役神戸大生フィギュア選手 世界ジュニア銅、文武両道いざシニアデビュー
フィギュアスケートの新シーズンが始まった。今年4月の世界ジュニア選手権で男子の銅メダルを獲得した壷井達也(19)=シスメックス=は、国立の神戸大国際人間科学部2年に在籍する文武両道スケーター。故郷の愛知から進学と同時に神戸に移り、今年の北京五輪銅メダルで世界選手権女王の坂本花織(22)=同=らと同門となった。本格シニアデビューする今季の抱負や学業との両立、また憧れの羽生結弦さん(27)への思いなどをデイリースポーツに語った。
中学時代から全日本中学校スケート大会や全日本ジュニアを制して注目を集めた壷井。しかし、2019年に右足首のケガでブランクをあけ、同時期に今年の北京五輪銀メダルの鍵山優真(19)=オリエンタルバイオ・中京大=や19年ジュニアGPファイナル優勝の佐藤駿(18)=明大=ら同世代が台頭した。雌伏の時を体づくりと大学進学の糧にした19歳は、満を持してシニアデビューを迎える。
-ケガに長く苦しんだ。
「19年6月、トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)の練習中に右足首を痛めました。1カ月くらい休んで間に合わせた全日本選手権(12月)で、また試合2週間前に痛めた。それだけ繰り返すと、ケガの感覚が染みついてしまって(3回転半が)怖くなりました。焦っても仕方がないと休養をとり、その間にかなり勉強しました」
-ケガから復帰後、本格的な受験期間に入った。フィギュアスケートは数日でも休めば感覚が狂うというが。
「(20年)11月の試合後、3カ月は完全に休みました。これだけスケート靴をまったく履かなかったのは初めての経験です。勉強はたぶん1日10時間以上。(練習再開時には)思ったほど滑れなくて、1カ月はジャンプをあまり跳ばずに氷に慣れることから始めました。3月末に3回転、4月にトリプルアクセルが戻って、5月に4回転が跳べるようになった。ただ、単体では跳べるけど曲に入れる段階で苦労しました」
-神戸大を志望した動機は。
「中京大中京高では理系クラスで国公立を希望していました。理系科目で受験できてスポーツの勉強もできるということで。筑波大なども考えましたが、近くにリンクがない。神戸大ならリンクもあり、競技を続けられる環境があったので」
-フィギュアスケートのための研究を目指しているが、籍を置く国際人間科学部発達コミュニティ学科では。
「スポーツ科学を中心に、物理や生物など理系の授業もあります。今一番興味があるのが動作の分析。スケートはあまりその分野の研究が進んでいないと思います。トップ選手が氷上という難しい環境でどのように跳んでいるか。例えばセンサーをつけて、ジャンプに成功した時の軌道と失敗した時の軌道がどう違うのかとか、入ってきたスピードで成功と失敗がどう分かれるのかとかをやってみたいです」
-昨春の入学時に、神戸に転居して中野園子コーチの門下に。今までと違いは。
「量より内容が厳しいです。朝練で全部曲を通すのが特にしんどい。愛知にいた時は朝練でスケーティングの練習をしていたけど、こちらでは朝からマックスで動いています」
-仲間の存在は。
「特に坂本選手は昨年1シーズンを一緒に過ごしてみて、普段の練習から量もすごいけど、その中で常に高いレベルを継続していると感じました。冬の全日本選手だけの朝練では、曲を通してできない(ミスする)と最初からやり直すんです。坂本選手はできるまで5回も6回もやる。あれだけやれば、本番でも余裕が生まれるんじゃないかと思います」
-これまで演技のお手本にしてきたのは。
「羽生選手です。ジャンプが滑りに溶け込んでいる感じで、跳ぶぞというのを見せずに跳んでいるのが本当にすごいと思います」
-出会いは。
「16年のアイスショーです。僕はまだノービスで、何もわからなかった。イスに座って寝ていたら、足が疲れるからと(もう一つ)イスを持ってきて(足を伸ばせるように)置いてくださって驚きました。これからも頑張ってねと、優しく声をかけていただいたのを覚えています」
-彼のプロ転向は。
「実は去年の全日本選手権が初めて一緒に出られた試合でした。やっとちょっとだけ追いついてきたかなと思ったところだったので少し悲しい。その時に一緒に写真を撮ってもらったのが思い出です。GPシリーズも一緒に出られたらよかったなと。でも、たとえ競技会に出られないとしても、上を追い続ける姿勢は本当に素晴らしいと思います。休まずすぐもっとうまくなろうというのはすごい」
-昨季は4回転サルコーが安定した。シニアへ本格参戦する今季は、GPシリーズの英国大会とフィンランド大会にエントリーしているが、目標は。
「ショートプログラム(SP)は90点を絶対に超える。フリーは170点を目標に。4回転はサルコーと、新たにトーループを入れられるようにしたい。今すぐ4回転を4、5本入れるのは現実的ではないので、去年の1本をまず2本に増やす。ミスが少ないことが自分の武器だと思っているので、安定した演技でスケーティングや表現を強化して、シニアで戦えるプログラムをつくっていきたいと思っています」
-26年ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪へ。
「あと3年ちょっと。1年ごとに4回転の本数を増やしていきたいと考えています。来年は3本、次は4本、次は5本と一歩ずつレベルアップしていきたいです」
◆壷井達也(つぼい・たつや)2002年12月17日、愛知県岡崎市出身。3歳上の姉の影響で名古屋市の名門、邦和スポーツランドでスケートを始める。竜海中3年時の18年2月、全日本中学校スケート大会で鍵山優真らを抑えて優勝。同年の全日本ジュニア選手権で初優勝。中京大中京高から昨春、神戸大国際人間科学部に現役合格。練習拠点も神戸に移して中野園子コーチの門下に入る。4月の世界ジュニア選手権で銅メダルを獲得。身長166センチ。家族は両親と姉。