阿部詩が世界柔道で復活V 両肩手術から1年 五輪前はしびれで眠れない夜も
「柔道・世界選手権」(7日、タシケント)
女子52キロ級決勝が行われ、東京五輪金メダルの阿部詩(22)=日体大=が、チェルシー・ジャイルズ(英国)に内股透かしでの「技あり」で優勢勝ちし、2大会ぶり3度目の金メダルを獲得した。昨秋に受けた両肩手術からわずか1年。完全復活を印象づける世界一で、24年パリ五輪での2連覇に向けて大きく前進した。
準決勝は、東京五輪決勝でも激闘を繰り広げたブシャール(フランス)と対戦。開始早々に内股で「技あり」を先行したものの、肩車で「技あり」を取り返され、ゴールデンスコア方式の延長戦に突入。今回も苦戦したが、最後は内股で再度「技あり」を奪い、合わせ技一本で最大の難敵を撃破した。
夢をかなえた東京五輪の直後、五輪2連覇に向けて大きな決断を下した。昨年9月に左肩、同10月に右肩の関節唇を修復手術。持って生まれた肩関節の柔らかさは、無理な角度からでも相手を担ぎ上げる豪快な技の原動力にもなっていた反面、抜けやすく、いわゆる“ルーズショルダー”の状態となっていた。高校3年だった18年11月のグランドスラム大阪大会以降、肩の不安を感じなかった日はなかったという。
練習ではいつも肩の角度に細心の注意を払い、相手の技を受けて我慢すると抜けてしまうため、方向によってはわざと飛ぶしかない時もあった。「どう力を入れても、テーピングしても、肩がゆるい状態だった。(肩が)抜けるとその日、次の日の練習できなくなる。(痛みで)指先までしびれて夜眠れないときもあった。『五輪まではなんとか耐えてくれ』って、毎日肩に話しかけながらやってました」と、当時は決して言えなかった苦悩を明かした。
術後約半年のリハビリを経て、乱取りを再開したのは今年3月半ば。それでもパリ五輪に向けて休養期間は設けず、4月の国内大会に強行出場した。結果は初戦で辛勝した後に途中棄権となったが、ファイティングポーズを取ったことに意義を見いだしている。「(今年の試合に)出なくてもパリ五輪に出られるだろうという一つのちょっとした気持ち(の油断で)で一気に崖から落ちることもある。気持ちを緩めず出場したいと思った」
人生初でもあった手術から1年。肩の痛みや、患部をかばいながら練習しなければならないストレスから解放され、「五輪後の方がいい柔道やれている」と胸を張る。「パリに向けて一番重要な大会になるんじゃないか」と位置づけていた世界選手権で再び世界一に輝き、五輪2連覇への視界は明るく広がった。