小平奈緒が有終V 8連覇置き土産にリンクに別れ 「鳥肌を超えて心が震えて飛び出てきそう」
「スピードスケート・全日本距離別選手権」(22日、エムウェーブ)
すがすがしい笑顔でリンクに別れを告げた。女子500メートルで、2018年平昌五輪同種目金メダリストの小平奈緒(36)=相沢病院=が現役ラストレースで37秒49をマークし、大会8連覇、通算13度目の優勝を達成した。「どのシーンにも置き換えることのできない、幸せな時間だった」と感慨深げに観客へ手を振った。
ただ夢中で氷を蹴った。最終カーブを抜け、あとはまっすぐ進むだけ。「もうここからは自由だ!」。迫り来る終着点へと向かいながら、小平はどこか爽快感に浸っていた。「できる力を全て出し切ってゴールしよう」。半年前から最後と公言し、迎えたこの1本。37秒49。小さく右手を握った。五輪シーズンだった昨季大会を上回る好タイムをマーク。この日誰よりも速く500メートルを駆け抜けた。
「幸せでいっぱい。もっと涙でいっぱいになるかと思ったけど、すっごい楽しかった」
小平の人生で「初めて鳥肌が立った」のがテレビ画面越しに見る98年長野五輪だった。この日と同じ会場エムウェーブで、一体となってわき上がる観客。あの日の記憶を再現したい。そんな思いで最終戦を迎えた。大会初日は平日だったとはいえ、2日目のこの日は前日の約5倍となる6085人の観客であふれ、「ありがとう」のボードが揺れた。
「画面で見た時よりずっと、人のぬくもりを感じるというか。会場が温かく包まれるような感じで。テレビで見た長野五輪とはまた違う、鳥肌を超えて、心が震えて飛び出てきそうな感じだった」
競技後のセレモニーでは、金メダルを争ったライバル李相花さんや、ゆず・北川悠仁からのビデオレターをサプライズ上映。14~16年に過ごしたオランダでコーチだったマリアンヌ・ティメル氏のサプライズ来場もあった。表情は終始晴れやかだったが、家族や所属先、周囲への感謝を口にするたびに、目は潤み、声が震えた。
最後のレース、わずか40秒足らずのために厳しい練習を乗り越え、全てをスケートに費やしてきた。「五輪でメダルを獲った時よりも、世界記録に挑戦した時よりも、ずっと私にとって価値のあるものだった」。晴れやかな門出。思いやりでいっぱいの温かな拍手が、リンクへと注がれた。
◆小平奈緒(こだいら・なお)1986年5月26日、長野県茅野市出身。3歳の時、姉の影響でスケートを始める。長野・伊那西高から信州大。10年バンクーバー大会から4大会連続で五輪出場。日本選手団主将を務めた18年平昌五輪では500メートルで日本女子スピードスケート史上初の金メダルを獲得。1000メートルは銀メダルだった。同年4月に紫綬褒章を受章。500メートル日本記録保持者で、17年には1000メートルの世界記録(1分12秒09)を樹立。165センチ、60キロ。